「西蘭花通信」Vol.0636  スピリチュアル編 〜夢日記:生と死〜            2013年9月7日

大きな買い物袋を腕にたくさん掛け、やじろべえのようにゆらゆらしながら道を行く私。何をこんなに買ってしまったのかということは頭になく、ただただ歯を食いしばって帰ろうとしています。大通りに出ました。香港の繁華街コーズウェイベイと下町ワンチャイの中間辺りで片側2車線の広い道です。

そんな道でも時間帯によってはさほど交通量が多くないのと、脇道からひっきりなしにクルマが出てきたり、ガードレールがないのをいいことに人が渡るのとで、クルマはスピードが出せません。100メートルほど先に横断歩道が見えるものの、荷物の大きさと重さに手を焼いていた私は迷うことなく、目の前の通りを横切ろうとしました。周りでも2人連れの若い女性、日傘の年配女性、配達途中らしいランニング姿の日焼けした中年男性などが、三々五々道を渡っていきます。
                   (イメージとしてはこんな場所→
                           渡ろうと思えば渡れます)


クルマが来ないのを見計らって通りに出ました。片側を渡り終えようとしたとき不意に猛スピードのクルマが後ろを通り過ぎ、風圧で足元がふらついて倒れそうになりました。両腕の荷物で手の自由が利かず、倒れないように足を踏ん張るのが精一杯でした。その時、再びスピードを出したクルマが目の前を走り去って行きました。今度は靴先20センチほどのところを通過していきました。全身から血が引く思いでした。

「早く渡り終えなきゃ。」
と焦れば焦るほど、足がもつれて前に出ません。まるで靴底がアスファルトに貼りついてしまったかのようで、靴の中で足が動くばかりです。その間も前や後ろを容赦なくクルマが走り抜けていき、いつの間にか道にいるのは私だけになってしまいました。あたかもどこかの赤信号で止まっていたクルマが、青信号に変わって一斉に飛び出してきたかのようでした。

「どうしよう。歩けない。」
一歩も踏み出せず前にも後ろにも進めないまま、疾走するクルマに挟まれ、私は生まれて初めて死の恐怖を味わいました。歩道を行く人が見えるのに誰も私に気づきません。走り抜けていくドライバーにも私が見えないようです。こんなにたくさん荷物を提げているのに!どれか一つでもクルマに引っかかったら引きづられてしまいます。死の淵にいる怖さで身体が強張り、さらに動けません。

苦しさで目が覚めました。目覚めた瞬間、私はベッドの中で仰向けになったまま、つま先をピンと立て必死で歩こうとしていました。時は冬。1年で一番重たい掛け布団は足先で押したぐらいではほとんど動かず、「歩けた!」と思うほど持ち上がろうはずもなく・・・・
「なんだ、夢だったのかぁ。」
とホっとして苦笑するような場面ですが、恐怖感に圧倒され笑ってすますことができず、私は乱れた呼吸を整えていました。

その日、突然生理が始まりました。2週間前に来たばかりだったので驚きました。年齢的には更年期のど真ん中にいますが、いまだに生理は順調でズレても1、2日のことだったので、2週間に2回目というのは経験したことがありませんでした。私はすぐに夢との関係を疑いました。あの死の恐怖は夢の中とはいえ本物でした。
「あれが生理を引き起こしたのでは?」
ふと20代の頃の友人の話を思い出していたのです。

彼女は1人で海外旅行をしていたとき、危うく強姦されそうになりました。何とか難を逃れ、通りがかったクルマに助けられて警察へ。そこで急に生理になってしまったのです。強姦は未遂だったので出血する理由はなかったはずですが、友人は、
「私だけでなく子宮も死ぬほど怖かったんだと思ったら、自分の身体が愛おしくなった。」
と言っていました。話を聞いたとき、彼女の感じたことは真実なんだろうと思いました。

「身体というものは極限の状態に追い込まれると、子孫をを残すための余力を捨て、自分の身を守ろうとするのではないだろうか?」
と思い当たったのです。卵子を抱き続けることは、ある意味で『余裕』なのかもしれない―――そう思いながら待つこと28日。果たして次の生理がきっちりと、正確に正常にやってきました。
な・る・ほ・ど!

夢と現実がつながった不思議な経験でしたが、死をリアルに垣間見たことで、生のありがたみもまたリアルに実感することができました。夢の教えや導きはまだまだ続くようです。

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「マヨネーズ」
本当に恐ろしい夢で目が覚めて水を一口飲んだ後も、再び横になる気になれず、しばらくベッドに座っていました。眠ったら同じシーンに引き戻されそうで怖かったのです。その後数日間は寝るのが恐ろしく、仰向けではなく横向きにエビのように丸まって寝ていました。ずっと「死ぬのは怖くない」と思ってきましたが、この夢で「死ぬまでは怖い」ということを知りました。願わくはぽっくり逝きたいものです。

その直後に聞いた話。友人の娘が結婚した相手は、先妻を30代前半の若さで亡くした人でした。先妻は子どもができないことを悩み、専門医を尋ねていました。
「異常なし。次はご主人が来診するように。」
という結果をもらったものの、彼が専門医のドアを叩く間もなく彼女は病に倒れ、亡くなってしまいました。

若さも元気もあるその年齢での急逝がいかに特別なことかはおわかりでしょう。残された夫は「自分には一生子どもができない」と覚悟して再婚したにもかかわらず、2人の子どもを授かりました。先妻の身体は妊娠できる能力を持ち合わせながら、本人が気づく前に極限まで追い込まれていたのではないだろうか、と思わせるエピソードでした。

西蘭みこと 

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