「西蘭花通信」Vol.0638  生活編 〜石地蔵:凍てつく冬に〜              2013年11月3日

むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。ふたりには子どもがいませんでしたが、年をとっても力を合わせて仲良く暮らしていました。

村のはずれの道には七つの小さな石地蔵がありました。むかしは旅人が通り、近くの小川で馬に水を飲ませる道だったそうです。今は別の道ができ、そこを通る人はいなくなり、お地蔵さんのことも忘れられていました。

子どもがいなかったおじいさんとおばあさんは、石地蔵をかわいがっていました。長い冬が終わって雪が解け、道が通れるようになるとお供え物を持っていきました。暑い夏には小川から水を汲んでかけてやり、周りのぼうぼうに伸びた草を刈ってやりました。

秋が深まると雪が来る前に、新しいよだれかけを持っていき、掛け替えてあげました。
「ほんとうは赤いよだれかけを作ってあげたいけど、きれいな色がなくてね。こんな色ですみませんよ。」
おばあさんは毎年同じことを言い、自分で織った青みがかった地味なよだれかけを、一人一人にかけました。

冬になると山深い村には大雪が降り、出かけることもできなくなります。おじいさんとおばあさんは冬支度に精を出し、雪に閉ざされる前にせっせと食べ物や薪を用意しました。

そのうち雪が降り出し、人の声も犬やにわとりの声もしない長い長い静かな時間がやってきました。おじいさんとおばあさんはいろりの周りに座り、縫い物をしたり、わらじを編んだりして過ごします。赤々と燃えるいろりは暖かく、外の厳しさを忘れさせてくれました。

ある夜、おじいさんは寝床で目を覚ましました。なんという寒さでしょう。まるで家の中にまで雪が降っているかのようです。あまりの寒さで目が覚めてしまったのです。外はいつにも増して静まりかえり、大雪が降っているようでした。

起き出していろりの火が絶えないように薪をくべていると、おばあさんも起きてきました。
「大雪だな。」
「そのようですね。」
いろりの火は赤々としているのに、暖かさが空気に吸い取られていくようでした。

朝起きると、寒さが一段と厳しくなっていました。おじいさんはあわてていろりに薪を足し、もっと薪を取ってこようと戸に手をかけると、
「ややや!」
戸が凍りついて開きません。おばあさんと一緒に引いたり、押したり、揺すったり、すきまに何かを差し込んでみたりしましたが、戸はびくとも動きません。

「これは困った。」
家の中の薪は残り少なくなっています。冬が越せるようにたくさん用意した薪のほとんどは軒下に積まれています。戸が開けられなければ取りにいくことができません。音をたてて助けを呼ぼうにも、雪で道がふさがれたこの時期に外を歩いている人などいません。

とうとう薪が底をつき、火がなければ料理もできず、湯を沸かすこともできません。
「これは困った。」
二人は途方に暮れました。この村で生まれこの歳になるまで、こんな雪は初めてでした。もう家の中に燃やせるものはありませんでした。

寒さと空腹で二人は床に入りました。眠ったら危ないとわかっていても、どうすることもできません。二人は震えながら眠りに落ちました。

どれぐらい眠ったのでしょうか。おじいさんが目を覚ますと家の中が明るく、暖かく、いろりには赤々とした大きな火が焚かれ、その上に吊るした鍋からはなにやらおいしそうな匂いがしてきます。

「はて、これはどうしたことか。」
おばあさんを起こすと、おばあさんも驚いて言葉が出ません。もっと驚いたことに、家の中に小さな裸んぼうの童たちがきゃっきゃきゃっきゃと声を上げて、動きまわっています。

「夢でも見ているのか?いや、違う。ばあさまも同じものを見ている。この童はどこから来たのやら。」
起き上がると童たちが気づき、もっと大きな声できゃっきゃきゃっきゃと喜び、二人がこちらへやってきました。

(つづく)

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「マヨネーズ」

先日、夕方遅い時間にダブルショットのコーヒーを飲んでしまい、私にしては珍しくまったく寝付けなくなってしまいました。ベッドの中でまんじりともせずにいると、小さな頃のことが次から次へと脳裏に蘇ってきました。
「きれいだな。」
と思いながらピンクのコスモスを見つめていた幼い日。あの花が顔の高さにあったほど小さかったとも言えます。3、4歳ごろのことでしょうか?

この「石地蔵」の話も思い出しました。小学校1、2年生の頃、日曜日の朝に布団の中に寝転びながら、折り込み広告の裏に書いた話です。あちこちの昔話を切り貼りしたような話で、
「どっかで読んだような?」
と、自分でも苦笑しながら書いたのを思い出します。

(多くの人がそうかもしれませんが、燃える火を見つめているのが好きです。忘れた過去を思い出しそうになります。シャトー・トンガリロにて→)

西蘭みこと 

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