「西蘭花通信」Vol.0656  NZ・生活編 〜旅は行ってよし帰ってよし〜         2014年1月16日号

30年前の大学4年の夏休みには、アルバイトで海外添乗員をしていました。何回か中国や台湾ツアーに行きました。当時は資格などなく、会社が添乗員として雇えば誰でもできる時代でした。しかし、さすがに大学生のバイトというのはまずいと思ったのでしょう。
「社員かどうか聞かれたら、今年入社した新入社員だと言え」
「客に聞かれたらまずいことは現地ガイドと中国語で話せ」
と言われました。(当時でも日常会話ぐらいの中国語は話せました)

あとは現地ガイドの名前、宿泊先、緊急連絡先など最小限の必要書類、参加者名簿、振って歩けと黄色い小旗を手渡され、「添乗員らしい格好で行け」というだけで、何の研修もないまま送り出されました。成田空港の集合にも社員は立ち会わず、私1人で参加者の点呼、登場手続き、座席の割り振りをして、機上の人に・・・・というような綱渡りなことをしていました。今思えばヒドい旅行会社でした(笑) 学生を雇うぐらいですから超薄給でした。返す返す何も起きず、全員無事に帰国できて幸いでした。

そんなツアーのひとつに、80代の高齢の参加者がいたことがありました。会社が付き添いの人を付けるように頼んだので、70代の元部下と一緒に参加していました。80代の参加者は意気軒昂で、毎日白髪をきれいに撫で付け、ガイドの説明にも熱心に耳を傾けていました。元部下はやや脚が悪く、観光するのも大変そうでした。座って休む彼に元上司が傍に立って付き添っていたり、2人でちょこんと座っていたりする姿を何度か見かけました。

旅の終わりは確か南京でした。そこで不意に80代の参加者からパンダの手刺繍がほどこされた、白いハンカチをいただきました。
「旅行好きで、定年退職してから何ヶ国も回ってきました。歳をとっていくので遠い国から順番に回ってきましたが、いよいよ中国まで来ました。これが私の最後の海外旅行です。まだまだ行きたいし、行けると思うのですが、医者も旅行会社も止めるので、これで最後にします。ありがとうございました。」
と、丁寧に挨拶され、思わずかしこまってしまいました。

大学を出たら海外に出ようと鼻息荒く待ち構えていた21歳にとり、旅行といえども世界を回り、最後の海外を終えようとしている人生に立ち会うというのは、胸を打つ場面でした。無念そうでもあり、世界を回ったという自負も感じられ、なんと答えたらいいのか迷いました。孫のような年齢の私にまで礼を尽くす年長者の高潔さに、ただただ深く頭を下げ、記念すべき最後の旅をご一緒できたことに感謝の言葉を述べました。

あれから30年の月日が流れました。予定どおり「海外出たっきり」となり、旅行したのは十数ヶ国、5ヵ国/地域に住み、香港とNZの永住権をとり、今に至ります。その間、目は常に外へ外へと見開かれていました。そして選んだNZという、地球上の最果てのような場所。ここに根を下ろし、早10年にならんとしています。しかし、以前にメルマガ〜NZ移住の原風景:帰路のない旅〜 でも書いたように、私が海外を転々としながら求めていたのは、帰らなくていい旅、移住だったのです。それが実現した結果、何が起きたと思いますか?海外への興味がきれいさっぱりと消えてしまったのです(笑)

今の私の目は正直な話、内へ内へと向いています。20代の頃から「いつか絶対に行こう」と決めていたフィージーが目と鼻の先だというのに行ったことはなく、裏庭のようなオーストラリアにさえ足を踏み入れたことがありません。世界のあちこちに住む友人からは、
「いつ来るの?」
と催促を受けつつお茶を濁し(笑)、驚くべきことにこの10年間、日本と香港への里帰り以外、海外に行ったことがありません。NZ移住までの香港時代はどんなに子どもが小さくても、少なくとも年に4回、出張も入れればもっと行っていたというのに!

改めて気づいたのは、「これ以上」を求めていない自分でした。「もっといい場所があるかもしれない。もっと相応しい環境があるかもしれない」という知らない世界への「もっと、もっと」という熱い期待、逆に言えば現実へのぼんやりとした疑問や不安がなくなり、「ここでいい、ここがいい」という、強い肯定や安心が私の中に築かれていました。今は夫婦2人での1、2泊の国内旅行が楽しく、行っては帰ってくる弾丸旅行を満喫しています。
(2人なのはもう息子が一緒に来てくれないからです)

(先日行ってきたニュープリムス。雲の合間から顔を見せた富士山によく似たタラナキ山→)

でもいつかまた、あのツアー参加者のように年齢や体力と相談しながら、世界を遠くから周り始める日が来ることも、ぼんやりと自覚しています。実家も日本も帰る場所ではないと感じた20代の頃とは違って、今の私には自分の家があり、NZに永住し、帰る場所があります。〜帰路のない旅〜で書いたように、「旅というものは、帰るところがある人のするもの」という実感が正しければ、いつかまた海外に出て行く日が来ることでしょう。今の国内旅行はその助走なのかもしれません。

旅は行ってよし帰ってよし。
ほんとうに人生は旅であり、旅は人生ですね。

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「マヨネーズ」

「ボク、エクセレンスだった!」
夏休み中、1日中部屋にこもっている次男・善(16歳)が珍しく部屋から飛び出してきて一言そう言うと、とっとと部屋に帰っていきました。

NZの高校は学年末に統一テストがあり、1年間の授業の中で取れるクレジットという日本の大学の単位のようなものと合わせて、最後に学年全体をどのレベルで終えたかという総合評価が出ます(何度聞いてもよくわからない、本当に複雑な制度なんですが・・・汗)

日本の5段階評価で言えば、「パス」が「3」(つまりそれ以下は赤点)、」「メリット」が「4」、「エクセレンス」が「5」というところでしょうか? ともあれ、がんばったようです。おめでとう!!!

今は毎日、昼まで寝ている結構なご身分。

西蘭みこと 

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