「西蘭花通信」Vol.0676  NZ編 〜ライフ・イン・GBI:センサス〜           2014年3月26日

雨のグレートバリア島(GBI)のカフェで話し始めた男性は、ハリーと名乗りました。同年輩と言っても私よりも夫に近い、40代後半という感じに見えました。彼ら一家はオーストラリアからの移民で、数年前にこの島に越してきたそうです。お互い移民となると国籍を問わず、なんとなく親しみを覚えるものです。
「こういうところはNZって独特だね。」
とか
「キウイはそういうの気にしないから。」
と、対象に自分を含めない客観的な目線に相通ずるところがあるようです。

「センサス(国勢調査)出ただろ。見たか?この島の人口が40人増えて930人になったんだ。」
「もう出たのね。まだ見てないわ。」
5年毎に行われるはずの国勢調査は2011年のクライストチャーチ地震の影響で2年遅れとなり、去年7年ぶりに実施されました。個人的には非常に統計を楽しみにしていたものの、詳細の発表はちょうど旅行に出るか出たかのタインミングだったので、まだ目にしていませんでした。

「とうことは、あなたたち一家もその40人に入ってるのね。」
「そうさ。たいしたもんだよ、こんなに仕事のない島で人口が増えるなんて。」
と、客観的な移民目線でありながら、ハリーの表情は明らかに嬉しそうで、それはここに暮らす島民のものでした。

「やっぱり仕事ってないの?」
「見てのとおりさ。人を雇うような職種は本当に限られてる。港とか工事関係とか。観光業が忙しいのも夏だけ。まぁ、3月までだな。自分で商売するにもこの人数だ、大変だぜ。それにここの連中はカネがないんだ。」
話は再び移民目線に。
「カネがない?」
「港も工事も、雨が降ったら休みの仕事も多い。漁師も天気が悪けりゃ漁に出られない。だから収入がない日もある。ペイも低いしね。」
「最低賃金とか?」
「まぁ、そんなもんさ。仕事を探してるヤツが大勢いるからね。」

現在のNZの最低賃金は時給13.75ドルで、90円換算なら約1,240円です。(4月からはさらに50セント引き上げ)より物価の高い日本の時給と比べても、悪くないはずです。NZではどんなに簡単な仕事でもこの時給以下で人を雇うことができないため、職種によっては非常に割高になり、かえって雇用の手控えになっているとみられています。
「時給900円だったら3人ほしいけど、時給1,240円だから2人でしのごう」
という訳です。労働力過多な状況では最低賃金以上の報酬を得るのは難しいのです。

にもかかわらず、島に着いたとたん物価の高さに目を丸くしました。ガソリンがオークランドの5割増しだったのに始まり、食料品や日用品も概ね3〜5割増しで、品数も限られます。察してはいたので滞在中の食料品は調味料から野菜・果物まで持ち込んでいましたが、パンだけは1斤(日本のサイズの3倍ぐらい)6ドル、540円で買いました。

(カーフェリーだったので食料品は持ち込み放題。他に野菜や果物、ヨーグルトまで持参しました→)

その時、夫の前で会計をしていた地元の男性はパン2斤にミルク(2リットル)、缶詰がいくつかにオレンジ1袋、あと何か小さい物が少しとビールが2ケース(小瓶24本)で140ドル、約1万3,000円を支払ったそうです。この量では一人暮らしでも1週間分にもならないのではないでしょうか?140ドルと言ったら、3人家族の我が家の1週間分の食費とそう変わりません。同じぐらいの金額でもオークランドなら新鮮な肉や魚、野菜や果物が何種類も含まれます。

島では新鮮な野菜も、肉や魚さえもオークランドから運ばれてくるので、なにもかもが割高でした。食料品店に大量の缶詰が並んでいるのもむべなるかなです。
「こんなに食品が高かったら大変よね?どうして魚までオークランドから来るの?みんなその辺で獲れたんでしょ?」
「そうさ、みんな島の周りのハウラキ湾で捕まえてるのさ。でも、漁師には年間漁獲割り当てがあるから、その管理のために数年前から地元では売れなくなったんだ。バカらしいだろ?目の前で釣れた魚がオークランドまで行って、また戻ってくるなんて。」

「だから若い連中はどんどん島を出て行ってしまう。特に女性はね。いったん出たら、もう戻ってこない。この島に移住するんだったら絶対にガールフレンドか奥さんを連れてきたほうがいい。ここで相手を見つけるのはまずムリだ。男ばっかりだぜ。」
と言いながら、ハリーは私が"品薄の"女性であること、そもそも私たちは所帯を持っていることに気付いたのか、言ったそばから宙に浮いたアドバイスを笑い飛ばしていました。

こういう現状を知れば知るほど、7年間で40人の人口が増えたことの価値がおぼろげにわかってきました。
「これは帰ったら国勢調査の結果をよく見なきゃ!」
と思いました。個人的には大いに望むところでありながら、初対面の人といきなり国勢調査の話で、盛り上がるとは思ってもみませんでした。私は興味津々で、島での暮らしぶりをさらに根掘り葉掘り聞いてみました。

(つづく)

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「マヨネーズ」

「ここだと魚はご馳走なんだ。オークランドから冷蔵されてきたのを買うか、自分で釣ってくるかだ。大枚をはたくか、自力か。どっちも大変だろ?だからご馳走なのさ。おかしいだろ、海に囲まれた島なのに。」
ハリーは移民視線と島民視線を使い分けながら、島での暮らしぶりを活き活きと語ってくれました。

それでも彼ら一家は無数の選択肢の中から、この島に住むことを選んだのです。これもまた移民同士、最終的な選択は違っても、本人たちのこだわりや思い入れ、それを実現するまでの悲喜こもごもは想像の範疇で、ぐっと身近に感じます。詳しくは次回で。

西蘭みこと 

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