「西蘭花通信」Vol.0691  NZ・生活編 〜ブルースプリング・レポートVol.33:青春の1ページ〜        2014年6月11日

インド人ドライバーのワゴンタクシーで学生時代最大のイベント、学校主催のダンスパーティーに乗り付けた次男・善(17歳)とその仲間の7人。会場となったオークランドでは指折りの高級ホテルに乗りつけると、車寄せには女子生徒が乗ってきたロングボディーのリムジンが横付けになっており、入り口付近はごった返していました。

「リモ(リムジンのこと)で来る子もいるの?」
と驚いて聞くと、
「けっこういるよ。親がボールが好きで好きでリモとか頼んじゃうタイプ。みんな女の子だよ。男でリモ乗って来るのって、ガールフレンドの親が頼んだから、ただ一緒に乗ってきただけって感じ。」
なるほど、男はオマケな訳ね(笑)

「アイちゃん(パシフィック・アイランダーのこと。我が家では親しみを込めて「アイちゃん」)の子とかはバンで来てたけど、クルマには『これって家族全員?』ってぐらい乗ってるんだよね。おばあちゃんや赤ちゃんもいるし、大人が何人も乗ってんの。」
この状況、瞼に浮かぶようです。誰の子なのか、アイちゃんの大家族にはもれなく赤ちゃんがついて来ます!善の同級生など、すでに出産を終えて復学している生徒もいます。

リモで乗り付ける白人がいれば、家族全員が乗ったバンで来るアイちゃんもいれば、善たちのように"いっちゃん安い"タクシーにぎゅう詰めになってやってくる子もいて、
「パブリックスクール(公立校)っておもしろいよねー。」
というのは、それを体験した本人の弁。
「学生のうちから、できる限り実社会に近い環境に身を置いてほしい。」
と願っている親の思う壺は、まさにこういう点なのです。

400人超が集う会場にはテーブルがズラりと並び、DJとプロのカメラマン10人近くがそれぞれのブースを設けていたそうです。写真は参加費に含まれているので、何回でも撮り放題。仲間で、カップルで、1人で、それぞれ背景が違うあちこちのブースを回ってはパチリパチリ。それをみんなが一斉にフェイスブックに載せるので、同時に広告が出るカメラマンたちには大いに宣伝になるという仕組みです。

今年のスクール・ボールの参加費は1人110ドルでした。今の為替で言えば1万円というところです。ホテルが1人100ドル、DJとカメラマンで1人10ドルぐらいの負担だったのではないでしょうか?カメラマンは1人1ドルというところですが、参加者は400人以上いるので1晩4時間(8-12時)で約4万円。悪くないのかもしれません。

「今年ボールやった子たちって、頭のいい子が多かったんだよ。」
と、善が言うので詳しく聞いてみると、ボールは学校主催ながら企画・運営は生徒の有志が組織する実行委員会が担うんだそうです。実行委員たちが、数字や管理に弱い、ただパーティー好きなイケイケ集団か、企画を練り、数字を詰め、参加費の効率を最大化できるスマート集団のどちらになるかでボールの質がガラリと変わり、今年は明らかに後者だったそうです。

善たちのボールは5月31日(土)でしたが、前日30日(金)には、同じホテルで近くの公立女子高もボールを開催していました。両校いずれもオークランドの東寄りで、生徒同士が小中学校で同級生だったり家が近所だったり、ということも多い間柄です。事前に実行委員同士で話し合い、連日で開催することで全く同じメニューにできるホテルの費用だけでなく、ブースや機材を持ち込まなければならないDJやカメラマンの費用をかなり浮かすことができたようです。な・る・ほ・どー!やるな、高校生。

「でも、ご飯はがっかりだったけどね。」
「そうなの?」
「メニューはいいんだけど味がねー。ホテルなんだから、もうちょっと上手く作れるはずじゃん?美味しかったのはローストぐらいかな?」
「ローストって、はっきり言って肉が焼いてあるだけじゃない?キウイだったら肉は上手に焼けないとね。」
「目の前で切ってサーブしてもらえるから、みんなそれでハッピーなの。」
それってBBQのノリ?これまた、な・る・ほ・どー!

善はさらに続けます。
「温クンが言ってたように、たった1晩のためにこんなにお金使って盛り上がるなんてバカバカしいんだけど、ここって他にみんなで一緒にできることがないじゃん?それに文化もないから、女の子がドレスやヘアーに何千ドルもかけるのってどうしていいかわかんないから、『2千ドルも使った』『あの子は3千ドル使ったからエラい』って、みんな金額に満足してるんだよね。お料理だってそう。美味しいかどうかより、ホテルで食べてるってことが大事なんだよ。」
なかなか鋭い分析です。

その辺を理解した上で愉しんでいるのであれば、親として言うことはありません。移民仲間のデンマーク人の友人の娘は、ネットオークションで買った17ドルのドレスで来たそうです。
「スゴくキレイで似合ってたよ。」
「ヨーロッパでも大陸側の人はお洒落にうるさいから、金額ではなく何が素敵なのか、その歳でもわかってるんじゃない?」
そういう善だって、15ドルのタキシードですから負けてません(笑) 最小の投資で最大のリターンというお愉しみ。人生の掟はこんなところでも活かされました。

(完)

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「マヨネーズ」

15ドルのタキシードにしろ、がっかりなホテル飯にしろ、リモもバンもなんでもありの公立校にしろ、他人や風評に惑わされず、自分の中に揺るぎない「価値感という物差しを持つこと」という、子育て中ずっと意識していたことが、青春の1ページの中にもしっかり刻まれていたことを嬉しく思います。

西蘭みこと 

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