「西蘭花通信」Vol.0692  NZ・生活編 〜ブルースプリング・レポートVol.34:メイトシップ〜        2014年6月14日

「孫のサム(仮名)がね、軍に行きたいって言い出して一家で大騒ぎよ!」
ボランティア仲間のケイトが話を切り出すと、
「軍たって、オフィス勤務の文官でしょ?」
と誰かが聞き、
「それがね、前線に行きたいって言ってるの。」
ここで居合わせた全員が、
「えぇぇえ!」
「まぁ、18歳じゃない?テレビや映画の延長で前線なんて言ってるのよ。来週面接かなにかあって、軍の施設まで私が朝9時に連れて行かなきゃいけないの。気が重いけど、孫の将来のためだと思うと断れないじゃない?両親は共働きだし・・・・」

連れて行く場所は市の西側で、私たちが住む東側からでは1時間かそれ以上かかってしまう場所でした。朝9時と言えば、市の中心に向けて途方もない大渋滞が連日繰り広げられている時間帯。渋滞は高速道路も同様なので、ケイトは一般道を使って渋滞を迂回しながら行こうと画策していました。いずれにせよ、普段は自宅から10km圏内ですべての事が済んでいる72歳には重大なミッションです。

「無事行ってきたわよー。ちょうど1時間だったわ。」
翌週の話題はまずサムの報告からでした。
「ところがどう?あの子ったら、申し込み用紙だかなんだか大事な紙を家に忘れて、『取りに帰りたい』って言い出したのよ。さすがに断ったわ。帰ってたら絶対に間に合わなかったもの。軍だから時間厳守も面接のうちだって言われてたらしいし。」

忘れ物はしても時間厳守だったサムはなんとか申し込みを済ませ、武官と文官の給与の違いを知って、その場で文官を志願。今月末には再び朝9時に同じ場所に行かなければならないそうで、ケイトは嬉しいやら憂鬱やら。
「『おばあちゃん、ここで待っててくれない?3時間ぐらいで終わるから』って言われたときは、思わず『シャラップ!』って言いそうだったわ。もちろん、置いてきちゃったけど。往復するだけでもヘトヘトよ。」

「サムはギフテッド(天才肌)なの。頭が良くてなんでもできるタイプなんだけど、ただ自分が何をしたいのかわからなかったのよ。学校に軍のリクルートが来たとき、『これだ!』って思って、その場で応募してきたの。親にも友だちにも相談しないで、1人で決めて1人で申し込んだんですって!大人になったわよね。」
ケイトはミッションの憂鬱も忘れて相好を崩しながら話しました。

サムと次男・善(17歳)は同じ学校の同学年。今まで一度も名前を聞いたことがなかったので、友だちではなさそうです。小さな学校で同学年はみな顔見知りなので、話を振ってみました。
「サム?知ってるよ。同じクラスじゃないけど。軍のリクルートが来たとき、5、6人で一緒に申し込んでたよ。」
「そうなの?ケイトは『1人で決めて1人で申し込んだ』って言ってたわよ。」
と言うと、善は笑いながら、
「まさかー。」

「あの子たちいつも一緒にいて、とってる授業も同じだから1日中一緒にいるんだ。全員ゲームが好きで、他には何にも興味がないって感じ。いつも誰かの家に集まって朝の4時ぐらいまで戦争ゲームとかやってるタイプ。ゲームだけじゃ足りなくて、本物の銃が撃ってみたくなったんじゃない?」
話の風向きがだいぶ違います。
「ケイトはギフテッドだって言ってたわよ。」
「なんの?」
「・・・・・?」

NZにはメイトシップという言葉があります。メイト(mate、友だち、仲間、相棒)という英語自体は普遍的なものですが、オセアニアでは特別な意味合いがあり、米語のブロ(bro、兄弟、仲間)に通じる男同士の親しみを示す呼びかけの言葉でもあり、「マイ・メイト」と言えば往々にして親友を指します。メイトシップとは男性に限ったフレンドシップやパートナーシップのことで、仲間内だけの強く親密な絆を指します。

メイトシップの発展には歴史的解釈がなされています。本国英国から遠い未開の地で、金鉱掘りや捕鯨など一攫千金の危険な仕事に就きながら、女性が極端に少ない環境のもと、公私とも男同士で過ごす中、徐々に培われたものではないかと言われています。19世紀初めまでは船でオセアニアにやってくること自体、野望をかけた男たちの大冒険だったことでしょう。祖国、家族、女性からの隔離。命がけの仕事。酒、賭け事、喧嘩に明け暮れる中、彼らは自分が所属するグループ内で仲間との結束を深めていったのです。

メイトシップは現在も受け継がれており、今でも地方に行けば行くほど、農業、林業、漁業、鉱業、畜産業といった「男だけの職場」が雇用の主流です。都会っ子にもそれは受け継がれており、
「同じ場所で育って、幼稚園や小学校から一緒っていう子がいっぱいいるよ。とってる授業も同じだし興味も同じだから、一緒に学校辞めたりするしね。いつも一緒にいることが大事だから、誰かが『大工になる』とか『軍に行く』と言うと、みんなで行っちゃうんだよね。」
移民の善はなかなか客観的です。

そんな善もいつも仲間7人と行動をともにしています。うち5、6人はマッセイ大学のウェリントン・キャンパスにある芸術学部への進学を希望しているそうです。
(1人はママからのお許しが出るかどうかでオークランド居残りか?→)
「みんなで寮に入りたいんだって。そしたら授業も家も同じでずっと一緒じゃん?」
善だけはオークランド大学商学部に進む予定で、やはり我が道を行く移民の子?!

===========================================================================
「マヨネーズ」

善は今夜もメイトの1人の家で、DVDを観てスパに入るそうで水着持ちでウキウキ出かけていきました。善以外は飲むんでしょう。12時過ぎたらパパに迎えに来てもらう魂胆。けっこうなご身分です。お返しに明日は芝刈りしてくれるそう。

西蘭みこと 

ホームへ