「西蘭花通信」Vol.0702 スピリチュアル編 〜夢日記:里子と里親〜          2014年7月16日

場所は住んでいる家の裏庭。話は突然やってきた知り合い親子との立ち話から始まります。
「ヒデを西蘭さんちで引き取ってもらえませんか?私も疲れちゃって、ついイライラして叱っちゃうんです。一番辛いのはこの子だってわかってるんですけど、仕事があって、学校にもたびたび呼び出されて、でも全然良くならなくて、はっきり言ってもうクタクタなんです。」

突拍子もない申し出を受けながら、
「ヒデくんってこんなに小さかったっけ?」
と、私は妙に現実的なことをぼんやり考えていました。母親は訴え続けました。ヒデくんは9歳か10歳ぐらいに見え、坊ちゃん刈りの頭を左右に動かしながら、大人の話を聞いています。
「自分が他所の家の子になるかもしれない!」
という事態に、気が気ではないでしょう。

私はヒデくんが学校でいじめに遭っていることを知っていました。問題は深刻で一向に解決せず、母親は何度も学校に出向いては、いじめている子の親と学校との三者会談に臨み、そのたびにボロボロになってしまうと言いました。いじめられているヒデくんが不甲斐なく思え、息子に苦しめられているような錯覚に陥り、気がつくと叱ってしまう自分が怖くなったと訴えます。
「この子のためにも、自分のためにも、一緒にいない方がいいと思うんです。こんなこと頼めるのは西蘭さんしかいないので、どうかお願いします。」
言葉にも態度にも決心がにじみ出ていました。

私は近くにいた夫に目配せし、
「わかりました。しばらくうちでお預かりしましょう。」
と言いました。彼女が言うように、ヒデくんのためにもここはしばらく冷却期間が必要だと感じました。母親は私の一言に何度も何度も頭を下げ、息子には、
「西蘭さんの言うことをよく聞いて、いい子にするのよ。じゃあね。」
と簡単に声を掛け、ほとんど顔も上げず後ずさるように庭から出て行きました。

ヒデくんは母親の姿が消えていった方角を見ていましたが、2度とその姿が戻らないとわかったのか、ふと顔を上げました。見下ろしていた私と目が合うと、反射的に照れ隠しのように、はにかんだ笑顔を浮かべました。9歳か10歳の子が照れ隠し?親に置いていかれ、子どもにしては捨てられたも同然なのに?
「やだ!他所の子になんかならない。お母さんと帰る!」
と泣き叫ぶでも、膝にしがみつくでもなく、ただただ恥ずかしそうに微笑んだのです。胸が塞がるほどの衝撃を隠しつつ、私も微笑み返しました。

「お母さん、くたびれちゃったみたいだから、ちょっと休ませてあげようか?しばらくうちにいる?大きいお兄ちゃんも猫もいるよ。猫好き?」
と声を掛けると、ヒデくんは下を向きながら小さくうなずきました。私はしゃがみこみ、ぶらんと下がったヒデくんのふっくらした温かい手を取りました。
「なにも心配しなくていいのよ。別にうちの子にならなくていいの。お母さんを休ませてあげるだけだから。帰りたくなったらいつでも言っていいのよ。送って行ってあげるから。」
と言うと、さらに小さくうなずきました。

母親は逃げるように行ってしまい、ほとんど知らない家に残され、うなずく以外、小さな子どもに何ができたでしょう。それでも涙ひとつ浮かべず、曖昧な笑顔の下に全ての感情を隠し、小さな口をキュッと閉じていました。
「この子に必要なのは自信だ。」
私は咄嗟にそう思い、小さな身体を抱きしめました。驚いたヒデくんは棒のように真っ直ぐになり、心持ち身を反らし、目を大きく見開きながらもはにかんだ笑顔を絶やしませんでした。

その後はドラマの回想シーンのようでした。私は「おばさん、おばさん」と呼ばれ、夏の暑い日に2人で蝉取りもしました。一緒に暮らすうちにヒデくんは少しずつ心を開き、感情を押し隠した笑顔ではなく、歯を見せ、声をあげ、子どもらしく笑うようになりました。その期間がどれぐらいだったのかはわかりませんが、数ヶ月だったように思います。

「お母さんのところに帰りたい。」
ある日、ヒデくんは非常に言いにくそうに、こちらの顔色を見なが小さな声で言ってきました。その態度は初めて我が家にやって来た日の曖昧な笑顔を髣髴とさせましたが、言葉には期待と意志がこもっていました。小さいながらも「お世話になっている」という自覚があるからこそ、言いにくかったのでしょう。「帰りたい」という一言が世話になっていることへの否定にならないか、先回りして考えていたのでしょう。今までの経験が9歳か10歳をして、こんなにも大人にさせてしまったのです。

「そう。じゃ、明日送っていくわね。」
私の返事に顔がパッと明るくなりました。帰ろうとしているのはお母さんが恋しくなったからでも、我が家に飽きたからでもなく、
「どんな状況になってもやっていける」
という自信の表明に感じられました。
「それだったら親子が一緒にいる方が自然」
とヒデくんなりに結論を下したようでした。自分で考え、導いた結論。これ以上に尊重すべきものはありません。夢はそこで終わりました。

(不定期でつづく)

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「マヨネーズ」

洗濯機と電話が立て続けに壊れ、明日同時に修理です。借家の方でも2、3ヶ所修理が必要な部分が発覚し、そういう星の巡り合わせの時期のようです。こういう時は減速して慎重に事を進め、守りの体制を固めます。そして無心になれるガーデニングや家事に打ち込み、辛抱強く身の回りと心の整理を図りつつ、潮目が変ったときに一気に攻められるよう抜かりなく準備を進めます。半世紀生きてきて、身についた知恵です。

(話していたのはオレンジの木のそば。今は毎朝のようにジュースにして飲んでいます→)


西蘭みこと 

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