「西蘭花通信」Vol.0711 生活編 〜ブルースプリング・レポートVol.38:護送船団〜  2015年4月13日

次男・善(18歳)は2008年の11歳を最後に三度の飯より好きだったラグビーを辞め、アメリカのカードゲーム「マジック・ザ・ギャザリング」にのめり込んでいきました。マジックを通じてさまざまな職種の大人のプレーヤーと知り合い、自力で人生の新しいドアを開け、ぐんぐんと突き進んでいきました。親の出る幕など全くありませんでした。

仲間うちではいつも最年少プレーヤーでありながら14歳でNZチャンピオンになり、カードの世界では大人と対等に渡りあっていました。これは子どもにとり得がたい経験です。中学生にとって身近な大人とは、親か先生かスポーツのコーチぐらいなもので、親類や近所の人と格別に親しくしていない限り、身の回りに大人などいないといっても過言ではないでしょう。特に親が介さない関係となったら非常にまれです。

プレーヤーとしてはいっぱしでも、子どもは子ども。大会があっても遠くの会場まで行くことができず、仲間が家まで迎えに来てくれたり、シティーのどこかで待ち合わせて連れて行ってもらったりしていました。帰りは遅くなるので、家まで送ってくれました。おかげで善は帰りが何時になろうが、安心してプレーを続けることができました。仲間うちでも強い方だった善が勝ち残り、善が負けるまで仲間が付き合うこともしばしばでした。

「悪いわね。みんな明日は月曜日だからお仕事なんでしょう?」
「大丈夫だよ。暇な大学生とかもいるから。それに、みんな強い人の試合が見たいから残って見てたいんだ。」
「でも、もし善が負けてたらとっとと帰ってきたんでしょう?」
「そうだね。奥さんやガールフレンドが文句言う人もいるから。」
ということになったり、もちろん、善がとっとと負け、勝ち進む仲間を延々と待っていることもありました。

善は次男のせいか生来の弟キャラで、それがまた回りの大人をして「助けてあげたい」と思わせる、なにかがあるようです。長女として生まれ、子どもの頃から図抜けた、ときにはふてぶてしくさえ見えるしっかり者できてしまった私には、全く縁のない世界でした。
「帰りが遅くなるけど、誰か送ってくれるから大丈夫。」
と善はケロりと言い、その言葉とおり、マジックに限っては一度として親が送迎をしたことはありません。

弟キャラは大会の送迎だけでなく、工作の宿題を仲間うちの高校の先生が手伝ってくれたり、大学生たちが高校の科目選択をアドバイスしてくれたり(NZの高校は完全選択制)、課外授業をサボるために公認会計士が協力してくれたりと(この話は〜ブルースプリング・レポートVol.29:16歳の渡世術〜で)、あらゆる面で活かされてきました。親としてはこの7年間、カード仲間たちが護送船団のように善を囲み、守り、導き、育んでくれたように感じており、言葉では言い表せないほど感謝しています。

さまざまな惜しみない支援の中でも、進路指導とアルバイトは善にとってかけがえのないアドバンテージとなったことでしょう。善がこの先、会計の道に進んでも、はたまた全く違う道を歩んでも、カード仲間からの数々のアドバイスはどこかで必ず生きるはずです。ことアルバイトに関してはすでにどっぷり恩恵に授かっています。

善は昨年12月からカード仲間に声をかけてもらい、シティーでアルバイトを始めました。高校を卒業し、大学入学まで3ヶ月もある夏休み中でした。バイト先とは本業が別にある2人のカード仲間が共同出資でやっているサイドビジネスで、さまざまなカードやゲーム、玩具やフィギュアを世界中から輸入しているオタク向けサブカルチャーグッズの輸入業者でした。善はそこに会計見習い兼雑用として、時給15ドル(約1,400円)で雇われました。

(オフィス代わりの海が見えるマンションの一室が職場だそうです→)

学生のバイトといえばまず、国が定める最低賃金(始めたときは時給14.25ドル、この4月から14.75ドル)から始まるので、それを上回るスタートがいたく嬉しそうでした。さらに仕事に慣れたら1日8時間まで何時間いてもよく、週何回出社してもいいという好待遇でした。
「そんなに忙しいの?」
と聞くと、
「ううん。けっこう暇だよ。でも、しゃべってるだけでバイトになるの!」
「な、なんでぇ?」

聞けば会社がエンジェルインベスターとともに、オタクによるオタクのためのオタクの新事業を始めるため、善もアイデアを出し、ボスたちと意見交換をしているだけで、仕事になっているんだとか。企画が具体化したら、今度はモニターとして延々と新製品を試すだけで、これまたバイトになるんだそうです。
「この仕事ってオタクじゃないとできないから、新聞に広告出して誰かを探したりできないんだ。働いてる人もみんなボスの友だちで、元遊戯王カードのNZチャンピオンとかもいるよ。」

「ボスたちはボクのことが好きなの。ボクとカードのこととか話すのが好きだから、雇ったんだと思うよ。でもボクには大学にもちゃんと行ってほしいの。学校サボってないか、ちゃんと勉強してるかも気にしてて、あんまりバイトに来なくてもいいようにって、大学生になった時に時給を18ドル(1700円)に上げてくれたんだよ。」
善は任意の個人年金「キウイセーバー」も始めたので、会社は時給以外にさらに3%を企業分として積み立てています。護送船団は善の将来だけでなく、老後まで支えてくれています(笑)

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「マヨネーズ」

「大学出ても仕事があるとは限らないから、今のうちからウェブデザインぐらいはできるようになっとけ。」
とカード仲間のITエンジニアから言われ、夏休みに1日かけて簡単なホームページぐらいはできるようになった善。この素直さが弟キャラ?

西蘭みこと 

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