「西蘭花通信」Vol.0741 生活編 〜次のステージにいる自分と出会う〜  2018年6月5日

ボランティア先で時々一緒に働いていた、息子のように若いブラジル人が辞めることになりました。彼はボランティアではなくアルバイトで、人手不足のときに呼ばれるせいか、そういう時に手伝いに行く私は顔を合わせる機会がたびたびありました。お別れの挨拶をしていると、
「日本に行こうと思って、これから英語を教えるコースに行くんだ。」
と言い出し、びっくり。前々から日本に行ってみたいとは言っていたものの、アニメやゲームのサブカルチャーに憧れて旅行に行きたいのだと思っていました。

「日本で英語を教えるならCELTA(セルタ)がいいわよ。」
と言うと、CELTAという一般の人には馴染みの薄い言葉が私の口から出たのに驚いたようで、大きなクリクリの目がさらに大きくなりました。
「そう、そのCELTAに行こうと思ってるんだ!」
今度はこっちが驚く番で、
「えぇぇぇえ!」
勧めておいてなんですが、やはりその存在を知っていたのは驚きで彼の本気振りがうかがえました。

CELTA(Certificate in English Language Teaching to Adults)とはケンブリッジ大学が認定する英語を母国語としない成人向けの英語教師資格です。私は、長男・温(24歳)の名古屋大学への進学が決まった後、夫が新聞広告で偶然見つけて知りました。英語教育の世界では非常に有名なようですが、私たち3人は名前すら聞いたことがありませんでした。しかし、CELTAのおかげで温の日本留学は思いがけない展開になりました。

「でも、コース費用が高いんだ。」
「だからいいんじゃない!」
「えっ?!」
「長男がCELTAを取って日本に行ったけど、英語ネイティブの外国人でもCELTAを持っている人はまずいないのよ。だから価値があるの。」
温が名大在学中に日本で1、2位を争う英会話学校の教師に応募したとき、「大学生お断り」と即座に断られかけましたが、
「CELTAを持っている」
と告げると話が急転し、東京から面接官が飛んできて面接、採用となりました。

「その代わり資格を取るまでが大変みたいよ。コースに入れても資格取得を保証するものではないから、英語しか話せないネイティブのキウイでも落とされたりするのよ。息子と同じクラスで2回目の挑戦だったキウイは2回目も落ちてしまったの。息子は18歳で若かったしキウイではないから、コースに入れるかどうか事前に面接があって、そこでも何度も何度も、『資格が取れるかどうかは保証しない』と念を押されたらしいわよ。」

彼はうんうんうなずきつつ、その辺の事情は良くわかっているようでした。
「ボクは言語と教えることが好きで、学生のときはアルバイトで数学を教えていたこともあるんだ。」
と、謙虚な口調ながらも主張は明確でした。成人して大学も出た子に親が費用を出すとは思えず、自力で挑戦するからこそ心の中には不安以上に勝算があるのでしょう。

息子の時を思い出すような、方針が定まった後の静かな闘志と揺るぎない自信が、キラキラする瞳から溢れ出てくるようでした。あとは始めるのみ。軌道に乗れば次々に可能性をつかみ取っていける予感がしました。
「あなたなら大丈夫よ。」
心からそう思い言葉にすると、彼は満面の笑みでちょっと照れたように、
「先生になるなら髭は剃ったほうがいいかな?」
と顎鬚を撫でました。
「それも大丈夫。息子はあなたよりボサボサだから。」
資格を取ったら知らせてくれることを約束して別れました。

息子のときのCELTAは、10週間で3,000ドル、今の為替なら22万円のコースでした。高額であることは今も変わりません。私はその金額にチャンスを嗅ぎ取り、息子、夫、私で1人1,000ドルずつ出し、息子はコースに通って名古屋に行く前に資格を取得、日本でビジネス英語を教える機会ができて生活が安定したら親は仕送りを減らして投資の元本を回収する、という段取りをつけました。あの時のことはメルマガにしているので、詳しくは〜消費と投資:消費と投資:CELTA〜をご覧ください。

息子がアルバイトを始めるや、1年も経たないうちに親は投資を回収し、回収後の仕送り減額分は親の「儲け」として次男の学費にまわりました。息子は息子で親への返済を終えた後はバイト代を貯めて、学生として時間があるのをいいことに何回も台湾へ短期中国語留学に行き、国内外の旅行に出ては見聞を広めていました。そして授業を通じて企業やビジネスマンからのさまざまな本音を耳にし、在学中から日本企業には就職しないことを決め、卒業と同時に独立し今に至っています。この選択もまたCELTAのおかげといえそうです。
    (けっきょく名古屋での就職はありませんでした(笑)→)

若い人には多少無理をしてでもお金と時間と努力を自分に投資し、それらが大きければ大きいほど手にする見返りも大きいこと、しかし、どんなにがんばっても必ずしも順調に行くとは限らないことも学びながら、全てをやり終えたときに一段上の次のステージにいる自分と出会ってほしいと思います。やるだけのことをやっての失敗と、たいした努力もしないでの失敗は意味が違います。前者であれば失うどころか、長い目で見れば得るものの方が大きいことでしょう。後から、
「あのとき上手くいかなかったのは、このためだったのか!」
と思うような、もっと大切な別の何かに出会うはずです。がんばれ!

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「マヨネーズ」
「そういえばユニテックのコースだと言ってたけど、開催場所が変わったの?」
と思ってググってみました。息子のときはオークランド大学でした。検索によると、ユニテックというNZの大学自らが主催するニュージーランドCELTAなるものがあるそうで、ケンブリッジCELTAとは別物でした(驚) こんなものがあったとは!海外でこそ信頼と実績とブランドの(笑)ケンブリッジCELTAでしょ〜。どうか彼が違いに気づきますように(祈)

西蘭みこと

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