Vol.0001 「NZ編」 〜100年の大計〜

「ここに住みたい・・・・。」旅行中ずっと思っていたことがやっと言葉になったオークランド。坂の多い美しい街を車で流しながら、言葉にしたとたん、自分の中から何か温かいものがこみ上げてきて、それにゆっくりと包まれていくような不思議な経験をしました。それまで自分の意識にも上っていなかった呪縛が解けたような開放感と、突然の思いつきに本人もきょとんとしながらも、とても穏やかな気持ちに浸っていました。その感覚をあえて言葉にすれば"至福"というのが一番合うように思います。それはちょうど今から1年前の2001年1月下旬のことでした。

あれから私の頭から「NZ」の頭文字が消えた日は一日としてなく、大袈裟なようですが本当に自分の生活の一部になってしまったのです。NZに行ったのはあの旅行が2回目でオークランドに行ったのは初めてでした。しかもその魔法のような幸せな思いに包まれたのは、オークランド入りして2日目、時間にすれば24時間もたっていない時のことでした。前の日は夕方近くにテムズから車でオークランドに入り、それまで回ってきた小さな街には比べられない大きさに宿選びで手間取り、適当なビジネスホテル風の宿にとりあえず車と荷物を残し、そそくさと夕食に出かけました。

たまたまその日は中国人にとっての本当のお正月に当たる旧暦の元旦(旧正月)で、私達は中華料理を食べに行くことに決めていたのです。足掛け18年くらい中華圏で暮らす私にとって(フランスにいた1年以外、海外生活はすべて中華圏。夫もほぼ12年の中華圏暮らし、子供二人はともに香港産の香港育ち。)、お正月は旧暦の方がぴたりと来るようになってしまいました。人類が経験則で学んだ自然に則したもののせいなのか、寒さがその当たりでピークを迎えるようなことを何度も経験しましたし、中華圏では風水や占いはもちろん、商売も賭け事もすべてのことが、1月1日からの新暦ではお話にならないといっても過言ではないくらいです。私自身も2月の誕生日あたりを境に、運気ががらっと変わるような経験をいくどがしたことがあり(旧正月は1月末から2月中旬の間で毎年変わるので、誕生日近辺に当たることが良くあります)、それをなぜかと考えるのではなく、今では「そういうものなのだ」と受け入れるようになりました。

やっと見つけたレストランで、香港での本場の中華料理とは違うものの、それはそれなりに美味しい家庭料理風中華料理を食べながら、この新しい年に何が起きるのだろう・・・とクリスマス・イブの子供のように、私は何かを待っていました。雑然とした店の中にも赤を基調とした賑々しい飾り付けがしてあり、お正月らしい雰囲気が出ていました。紙でしつらえた飾りに囲まれながら、窓の外の街並みを見下ろしつつ、「残りの人生の指針になるような100年の大計を立てよう」と年頭に思っていたことを思い出していました。新年だからといってそう簡単に壮大なテーマが見つかるわけでもなく、西洋風に言えば新世紀の始まりでもあった私の2001年は、ゆるゆると始まっていたのでした。いよいよ本番の旧正月の幕も開いてしまいました。そしてその翌朝、空からでも振ってでもきたような「ここで暮らそう」という突然のひらめきで、一瞬にして大計の指針が定まったのでした。

私は思い立ったら必ず実行します。今までの人生がすべてそうだったので、今回も本当になるでしょう。確実に実行に移すためには待つことも厭いません。確実に家を出るために、大人になるのをじっと待ち続けたような子供だったので、年単位で待つこともできます。気持ちとしては明日発ってもかまわないくらいもう迷うものはなく、一人身であればトランク片手にさっさと香港を後にしていたことでしょうが、夫も子供いることですから大切な彼らの気持ちが一つになってくるまで、ケーキの上のサクランボをとっておくように、お楽しみを残しておくこともいいかな、と今では思っています。

私が突拍子もないことを言い出した時、夫の内心は「あちゃ〜」と言ったところでしょう。私の腰の入った実行力は10年間の結婚生活で立証済みなので、彼にとってはそれに同意するかしないかという次元の話を通り超え、想像するに「やっと巡り合った絶好調の仕事を投げ打って、おれもここに住まわされるのか〜」というあきらめにも似た思いではなかったかと思います。彼はひたすら沈黙を守っていました。当時6歳の長男は、ママの突然の発言にうっすらと涙ぐみながら「温くん、やだ。僕、香港好き、引っ越してきたくない」と即反発。3歳の次男だけが、「ニュージーラン(ド)、ちれい(きれい)、善くん、ここちゅき(好き)」と賛成してくれました。

あれから1年。夫は西蘭家のNZ行きのためにホームページを立ち上げてくれるまでになり、自分で買ってきた本を片手にこつこつと作りあげてくれました。しかもコンテンツを充実させようと趣味のラグビーまで借り出し、日記をつづり、なかなかメルマガを始めない私を急かすまでになりました。インターナショナル・スクールに通う長男はウェリントンから来たガールフレンドができたし、次男は相変わらずですが、少なくとも「ニュージーランド」と「きれい」は言えるようになりました。

西蘭みこと

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このメルマガ「西蘭花通信」(西蘭花は中国語でブロッコリーのこと、私と子供の大好物でもあります)では、西蘭家がNZに旅立つその日までのドキュメントを、子供の成長や香港の生活を織り交ぜながらお伝えしていきます。これは一つの夢をかたちにしていくための実験の記録であり、私にとっては確実に生きた時間の証となることでしょう。目にされた方が、「こんな人もいるのか〜」と思ってくだされば幸いです。そして皆様が改めて自分の夢に思いを巡らせて下されば、私にとってとても喜ばしいことです。 そのため、構成は毎回のテーマに合わせて、地域別の「NZ編」、「香港編」、家族や生活全般の「生活編」、今のところ私の本業で、香港の生活を語るには避けられず、それがなおかつNZの生活との面白い対比をなすであろう「経済編」の4つに分けてお届けする予定です。発行は目標では週刊としますが不定期発行になることでしょう。同時にホームページのビーズ欄では新作ごとにコメントを足した、「ビーズめくり」も近々開始の予定ですので、そちらの方も良かったらのぞいて見てください。

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