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Vol.0018 「生活編」 〜哲学する鳥〜

今年は午年だというのに鳥年かと思うほど、年頭から鳥づいています。まず元旦に「ハリーポッター」の映画を見終わって子供たちと映画館から出てくると、街路樹の下にうずくまった生き物が・・・。ぱっと見では死んでいるようにも見え、「何も死んだ生き物を子供に見せなくても・・・」とも思いましたが、念のためによく見てみるとスズメに良く似た首の周りにうっすらと模様のある茶色の小鳥でした。虫の息ですが生きてます。すぐにタオルにくるみましたが掌でもぐったり。まともに鳥を飼ったことがないのでどうしていいかわかりませんでしたが、すぐに鳥かご、エサを買い、とにかく温かく、暗くしようと、鳥かごをタオルでくるみバスルームのシャワーカーテンにかけました。

翌朝。毎朝6時前には起きる家族で一番早起きの私は、そっと鳥かごを覗いてみました。中はタオルがグチャグチャになりエサも飛び散っています。良く見ると昨日は立つこともできなかった鳥が止まり木に止まっています。しかも別の止まり木に飛び移ったりもしています。「やったねぇ!」と声をかけると、「ピイィ」とかすかに声が出るほど元気になっていました。ほとんど開かなかった目もぱっちり開いて、そのつぶらで輝くような瞳と目が合いました。「元気になったら空に返してあげるからね。行ってきます」そう言って、陽が入るように南向きの窓を大きく開けて出勤しました。

ところが、わたしはその鳥に二度と会うことはありませんでした。1.5cmもない鳥かごの柵の間から逃げ出したのです。しかも家族が起き出してくる前に・・・。何度も脱出を試みたのかバスルームにはエサがたくさん散らばっていたそうです。幸い羽がなかったので大脱走でも本人は傷つかなかったようで安心しました。きっと窓から差し込む陽光に、居ても立ってもいられなくなったのでしょう。そこまで回復していたならこちらも本望。「元気でね」と祈るばかり。

そして4月。ホームページの日記やギャラリーにも登場しましたが、今度はマンションの敷地内で羽を大量に散らしたハトに遭遇。前回の経験から「鳥は結構回復が早い」ということがわかっていたものの、「今回はダメか」と思うくらい弱っていました。大きいので猫のケージとバスタオルで捕獲しましたが、大きな羽もたくさん落ちていたので「助かってももう飛べないかも」と心配でした。

管理人の許可を得て、彼らの目の届く駐車場内にケージを置かせてもらうこと一週間。そのうち立てるようになり、毎日大量のフンをしエサをひっくり返し、ケージの中でドタバタドタバタ。ただし飛べる保証はありません。慎重を期して一週間後にやっと見つけたところで放してみました。眩しそうにキョトキョトしながらもトコトコ歩くではないですか・・・。フェンスにも飛び乗れたので近くの植え込みの木に飛び移ることも難なくできそうです。「これなら大丈夫だろう。」とホッとして、二羽目を見送りました。

そして5月。今度は二羽も。またもや子供たちがマンションの敷地内で小スズメを見つけてきました。5歳の次男が手で持ってこられたくらいですから、これもかなり弱っています。大きさから見て巣から落ちた雛でしょう。元旦に買った鳥かごを用意していると、再び次男が「ママ〜もう一コ!("一羽"だってば・・・)今度はつかまれない("捕まえられない"だってば・・・)」。捕獲に行くと一羽目と兄弟と思しき同じスズメの雛でした。動かない二羽をタオルにくるんで鳥かごへ・・・。

それから半日。目も開かなかった鳥たちは今、西蘭家のバスルームで「ピィーピィーピィーピィーピィーピィーピィーピィー」と一定のリズムで鋭く高く鳴いています。なんという回復力!野性の逞しさなのか、寿命の短い生き物にとって半日は人間の数日に匹敵するのか・・・。あの声は親を呼んでいるのでしょう。「シートン動物記」にかなり詳しくカラスの会話の話がでてきますから、スズメだってこれぐらいの話はできるに違いありません。寒くもないし今日中にも放せるかもしれません。

昨年ニュージーランドを訪れた時、ロトルアへの道すがらでダチョウに一目惚れしました。「なんとキレイな鳥なんだろう!」まともに見たこともなかった見上げる高さの巨鳥は今まで見たどんな鳥よりも知的に見えました。長く伸びる薄ピンクの首の上に品良く収まる小さな顔。その中の濡れて輝く知的な瞳がこちらをじっと見ています。まるで哲学者のようです。お互い初めて会う相手と見つめ合いましたが、そのまま言葉が交わせそうでした。拾ってきた鳥たちのつぶらな瞳を見ながら思うことはただ一つ。「移住したら絶対にダチョウを飼おう」。

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「マヨネーズ」 ここまで先週の水曜日に書いた時にさっさとスズメを放せば良かったのです。ところが夕方になり少し冷たい風も吹いてきたので様子を見ようと思い、元気な方だけ放して弱っていた方は残しました。次の日にはエサも食べだしたので「これは順調。土曜日に子供たちと一緒に放そう」と思った矢先、金曜に突然死んでしまいました。朝、出勤する前は生きていて静かに座っていました。目もパッチリ開いていたので一声かけて家を出たのですが・・・。本当にかわいそうなことをしました。エサを食べた時点で放してあげるべきだったのかもしれません。野生の生き物を鳥かごで死なせてしまったのは不憫です。ちょうど手ごろな黒のボール箱が見つかったのでやわらかい紙とベランダに咲いているピンクの花を敷き詰め、白いリボンをかけて近くの公園の植え込みに弔いました。付いて来た子供たちも自然と手を合わせていました。「早く元気に生まれ変わって、大空を思いっきり飛ぶんだよ。助けてあげられなくてごめんね。」

西蘭みこと