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Vol.0025 「ビーズ編」 〜一粒のダイヤよりも〜

「ニュージーランド行って何するの?」。移住、移住と言っていると、何回も同じ質問を受けます。私はかの地で暮らすことを夢見ているので、"住むこと"、それが一番の目的です。だから「何するって、生活するのよ!」というのが最も正直な答えですが、そんなこと言おうものならケンカを売っているとも取られかねず返答に窮します。質問するほとんどの人は「何の仕事をするのか?」「どうやって暮らしていくのか?」、もっと端的に言えば「食っていけるのか?」と聞きたいのでしょうから。

ケンカを売るつもりはさらさらないので、二番目の選択肢として「ビーズ屋さんかなぁ」と答えると、チカラない笑いとともに「そうよね、西蘭さんてまだビーズにハマってるのよね〜。」とのお返事。今度はテキトーな冗談ではぐらかされたと思われたようで、「いいわねぇ、夢があって。で仕事は?」と、また振り出しに。「え〜っと、だからビーズ・・・・」と口ごもっていると、「ま、ゆっくり考えれば。」と、聞いてきた本人が話を締めくくり、聞かれていたこちらはポツネンと取り残されることも・・・。

実は一昨年、「店を出すかも・・・」という期待が一気に膨らんだ時期がありました。知り合いの知り合いが、ラマ島という今では毎週のようにガラス工芸を習いに行っている離島で、自作の陶器を売る小さなお店を持っていたのです。しかし、彼女が香港を離れることになり、それを聞きつけた私が知り合いに頼みこんで紹介してもらい、やはり陶芸をやっている友人と二人で、お店を譲ってもらえないかと直談判に赴いたのでした。お店は一坪もないこじんまりしたもので、入り口には色とりどりの花があふれんばかりに置いてあるのに、一歩中に入るとお手製の棚に落ち着いた色の和食器が品よく並んでいました。友人と二人、一目で気に入ってしまい、瞬時に共同オーナーになることを決心しました。

それからしばらく、頭の中は離れ島の店のことでいっぱいでした。"外は明るいのに南国らしい大粒の雨が降っている。通りの人通りが引く。少し暗い店の中ではみことが小さなランプで手元を照らしながら一人でアクセサリーを作っている。静か。"という、芝居のト書きのようなシーンが頭から離れなくなり、誰も来ない雨の日に店番をしている自分を何度も遠くから眺めた気がしました。

しかし、結局のところ、店は私たちのものにはなりませんでした。家主が自分で経営していくことに決めたからです。内装には手を入れずにどこかで買ってきたらしい陶器がしばらく並んでいましたが売れないらしく、そのうちキーホルダーだの携帯ストラップだのといったお土産アイテムが並びだし、何屋か判然としないほど見境なく何でも売る店になってしまいました。それでも上手く行かなかったと見えて、今では店先にジューサーを並べたジューススタンドに衣替えしています。

今でも店の前を通りかかるたびに、「あの時借りられていたら・・・」とチラリと思ったりもしますが、縁がなかったのだから仕方ありません。でも"誰も来ない雨の日の店番"というイマージュはいまだに私の中にあり、遠のくどころか心の奥に深く深く根を下ろし、「これがデジャヴュになる日が来る・・・」という漠然とした思いが静かに堆積しています。だから私の「ビーズ屋さん」は決して荒唐無稽な話でもないのです。本当に、一粒のダイヤより1トンのビーズを!

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「マヨネーズ」  長男のイギリス人クラスメートのママから電話をもらい、「今度の日曜に船を出すけど家族で来ない?」という気さくなお誘い。香港というところは貧富の差が物凄く激しいので、こうして自家用クルーザーを持っている人もいれば(NZとは比較にならない維持費でしょう)、1ヶ月に3万円ちょっとの生活手当てで何人もの家族が暮らしていたりと、ピンからキリまであらゆる階層の人がいます。

なのでどの辺をして中流と言うかも難しく、どんな金持ちも貧乏人も実に堂々としています。それぞれが「金持ち(or 貧乏)でなにが悪い?」という訳なのです。子供たちにはマンション3階分を吹き抜けにして使っている友達や、運転手・テレビ付きBMWの送迎で呼んでくれる友達もいます。お誕生パーティーともなればホテルやプライベート・クラブで盛大にやり、持たせたプレゼントよりも高価なお返しを持って帰されます。

こうなると同じようにすることは、到底不可能です。そんな時は、心をこめてアクセサリーを作ることにしています。本物のブルガリやカルチェでジャラジャラ状態のママたちなので手作りアクセを贈るなんて勇気がいることかもしれませんが、私にできるのはそれくらいなので怯みません。結局クルーズに誘ってくれたママには、大振りのチェコ、ソロバン型のスワロ(フスキー)に淡水パール、黄緑がきれいな天然石のペリドットにラウンドカットのスワロを、それぞれチェーンのところどころに散らした3連のネックレスをプレゼント。パールと天然石以外はすべてパープルにしてみました。

「本当に作ったの?信じられない」。お世辞でも喜んでもらえれば嬉しいもの。「何色が好きだかわからなかったから、あなたのことを思い浮かべながらテキトーに組み合わせたの。」と正直に言うと、彼女は驚いたように、「My favourite colours!」とクイーンズ・イングリッシュならではのスペルを連発し、サッと手の甲をこちらに向けて腕を見せてくれました。それぞれの腕には素晴らしいカットの濃紫のアメジストのブレスと、鮮やかな黄緑のエナメルベルトにアンティークの高そーな時計がはまった腕時計が・・・。キンコンカンコン♪キンコンカンコン♪キンコンカ〜〜ン♪♪のど自慢のあの鐘が、私の中で鳴り響く瞬間。

西蘭みこと