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Vol.0030 「NZ・生活編」 〜キウイのコミットメント〜

オークランド空港。私たちは香港に帰るべく、クライストチャーチからの国内線ターミナルから国際線ターミナルに移動するため、空港内のシャトルバスに乗っていました。前の座席には大柄な年配女性二人が座っていて盛んにおしゃべりをしています。空港関係者のようで制服を着ていて一人は手にトランシーバーを持っており、交信の声が盛んに流れてきます。

全行程5分前後の短い距離でしたが、途中の唯一のバス停で何人かが降りていきました。その時、前の二人も立ち上がったかと思うと、やおら私たちの方に向き直り、「どちらまでですか?ターミナルはおわかりですか?」と、とても丁寧に話しかけてくれました。「ありがとうございます。香港まで参りますので次で降ります。」と、こちらも思わずかしこまって答えると、「おわかりでした何より。それでは・・・・」と、その後に「ごきげんよう」とでもつきそうなクラシカルな挨拶で締めくくるとバスを降りていきました。

ニュージーランドで数限りなく受けるこうした対応を、何と表現していいか長い間わかりませんでした。「丁寧さ」「フレンドリーさ」「優しさ」「責任感」「思いやり」「おせっかい」「人なつっこさ」「野暮ったさ」・・・人によっていろんな印象があることでしょう。人口密度の割に他人と異常に距離を置く都会暮らしにどっぷり漬かっている人間には、見ず知らずの人が頼んでもいないのに自分にかかわってくるということは、かなり珍しく戸惑うことで、嬉しかったり、うざったかったりするものです。

でも、私はキウイのこうしたさり気ない気遣いが非常に心嬉しく、その度に反省させられることしきりです。「他人を他人と認めるのが良識」とばかりに知らない人と徹底して没交渉でいるうちに、都会に住む人は他人とのかかわり方を忘れ、道を聞く以外、声をかけることすらできなくなっているのではないでしょうか?それどころか、明らかに助けが必要とされる状況でも、故意に見なかったことにして通り過ぎてはいないでしょうか?

ある日、同僚のキウイとNZの不動産市況の話をしている時に、彼が何気なく"コミットメント"という言葉を使った時、私の頭の中でパッと電気がつきました。「これだ!」。英辞郎によれば、「献身、参加(意欲)、かかわり合い、肩入れ、義務、責任、約束、方針、公約、交際すること」等、4項目に分けた解釈がありますが、これらすべてがこの一語にギュッと凝縮されており、それがまたキウイと他者との関わりを端的に表現しているように思えたのです。

まるで謎解きのパスワードが分かったみたいに、「そう言えばあそこで会ったあの人も・・・」、「あの時のこの人も・・・」と、旅先で会った多くのキウイたちがコミットしてきてくれた場面が次から次へと蘇ってきました。

オークランドでケリー・タールトンズ・アンダーウォーター・ワールドに行った時のこと。チケット売り場で、「大人が二人、子供が・・・」と言う私たちに、「その人数だったら・・・」とファミリー・チケットを薦めてくれたアルバイト風の若いお兄さん。彼にとっては一期一会の私たちがいくら払って入場しようがどうでもいいことだったはずですが、その一言で私たちはNZの行楽地にはそういうファミリー・チケットがあることを知り、以来、どこでもチケットを買う際には確認するようになりました。

日曜日だけ運行している蒸気機関車に乗ろうと、ティマルから少し入ったプリサントポイントに行った時には、「子連れだったら丁寧に頼めば、機関室に入れてもらえるかもしれないですよ。ウチは先月、入れてもらったんです」と、駅前カフェのウェイターに声をかけてもらったことがあります。私たちが彼の忠告に従ったことは言うまでもなく、親子でとても楽しい、特別な思い出ができました。

たくさんのキウイ達から教わった"コミットメント"は、今では"継続は力なり"と並ぶ、私の生きる指針になりました。知らない人や事に関わっていくことは、面倒だったり、気恥ずかしかったり、「あつかましいと取られはしないだろうか」と心配だったりで、結局、「ま、いいか。」と流してしまう方が圧倒的に多いことでしょう。でも、最近の私は「ま、いいか。」の直前で多少は踏み留まれるようになりました。この勇気はキウイ達からもらいました。移住前でもキウイ生活への小さな一歩を踏み出しています。

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「マヨネーズ」  先日、ご近所に誘ってもらい、家族で行った小学校の学園祭。子供たちが通うイギリス系の学校の系列なので親しみがあり、毎年のようにお邪魔しています。校庭中を走り回っていた長男が、「ママ!"ママ・ティナ"のお店がある!」と教えてくれました。"ママ・ティナ"とは、ベトナムやモンゴルでストリートチルドレン支援を行っている、自らもアイルランドでストリートチルドレンだった経歴のあるクリスティーナ・ノーブル氏のことです。行ってみると、
クリスティーナ・ノーブル子供基金の香港支部がブースを出していました。ずっと活動が気になっていて、インターネットで調べればすぐにでも連絡先がわかることを十分に承知していながら、何もして来なかった私の前に忽然と現れたブース。

座っていた白人とインド人の女性二人と挨拶し、パンフレットをもらい、家に帰ってからはベトナムの子供の里親になるために小切手を切り、買ったきり積読していたノーブル氏の著書を改めて手にしました。以来、少しずつ読んでいます。その後、基金の方からご丁寧な連絡ももらい、私の"コミットメント"は後戻りできないところまで既成事実化しました。ここまで来れば大丈夫。最初の面倒くささを乗り越え自分以外の人を巻きこんだので、あとは前に進むだけ。そう言えば、ずっと見つけられずにいたノーブル氏の著書2冊は、NZ旅行の際にオークランド空港の本屋で新刊書を押しのけてズラッと店頭に並んでいたものでした。とことん、キウイつながり♪

西蘭みこと