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Vol.0066 「NZ・生活編」 〜中華前線 その2〜

遠い国へ旅した時、旅先でふと中華レストランを見かけてホッとすることがあります。スペインの片田舎、文化圏としては完全にアフリカのモーリシャスなどで、特にそんな想いにかられました。「こんなところにまで来てた人がいたんだ」と思うと、どんな人なのか知りもしない華人系オーナーたちに敬服さえ感じてしまいます。桜前線ならぬ中華前線です。どんな理由があったにせよ、故郷を遠く離れて、全くの異国でひっそりと暮らしていく人生・・・。華やかさはないけれど、エキゾチックで密やかな生活が勝手に思い浮かんでしまいます。

ニュージーランドでもかなり小さな町にまで、中華レストランがあります。「食材はどうしてるんだろう」、「冬は寒いだろうな」、「広東人だろうか、福建人だろうか」と、20年近く中華圏に暮らしているせいか、見知らぬ相手にでもつい親近感を覚えてしまいます。店に入ると雰囲気はさまざまで、一目で家族と分かるくらい、そっくりな顔つきの人たちが揃って迎えてくれる店から、ウェイター、ウェイトレスはニュージーランド人か留学生らしい学生アルバイトばかりなのに、レジにはオーナーらしきおばさんが鼻眼鏡でデンと座っているような大きな店までいろいろです。

そして注文。頼む時に中国語が使えると、私としてはとても便利なので(外国の和食レストランで、「豚の角煮」「胡麻和え」「おろし大根」を英語で日本人に注文しなくてはいけない状況を想像してみて下さい)、注文はとりあえず中国語で切り出してみます。突然の中国語に身じろいで、「す、すいませんが、英語でお願いできますか?」と言ってきた若い三世もいましたが、「アンタ台湾人かい?」と思わず身を乗り出してきた一世のおばさんもいました。

いよいよ料理が運ばれてきます。どんな料理であっても、第一印象はだいたい「!」というビックリマークです。「こんな辺鄙なところで、よくぞここまで本格的に」という「!」もあれば、「オーダー間違えたの?それとも、ひょっとしてコレが?」の場合の「!」もありますが、いずれにしても食べる前にちょっとした感動が味わえます。

中華料理というのは往々にして保守的で、創作料理はあまりしません。定番料理は麻婆豆腐にしろ、芙蓉豆腐にしろ、材料はどこで食べてもほとんど変わりありません。しかし、外国のしかもNZの片田舎となったらそうも言ってられませんから、かなり定番から外れてきます。私はオリジナルから離れていく度合いの尺度として、モヤシや豆腐をバロメーターに使っています。両方とも日持ちがしませんし冷凍や缶詰もないはずで、これがメニューにあるということは、かなり他の食材も揃っている可能性が大きいのです。

豆腐は日本製や卵豆腐では長期保存用もありますが、中華食材では見たことがありません。アジア人でなくともヘルシー嗜好から豆腐を食べる人はいますが、相当の数が売れてこその供給でしょうから、場所によっては手に入らないらしくメニューからなくなります。ですからコーンやセロリ入りのカラフルな麻婆豆腐を食べながらも、「豆腐が入っているだけありがたい」と思って食べると、それはそれで美味しくいただけるものです。

豆腐がないとなると他も押して知るべしで、緑黄色野菜はブロッコリー、ズッキーニ、セロリ、アスパラガスと西洋野菜に限定されてきます。意外とあるのがタケノコです。これは安い缶詰が非常に一般化しているためのようです。西洋野菜ばかりの野菜炒めにちょっとタケノコが混じるとグッと本物っぽくなるから不思議です。これに木耳(これも乾物ですからけっこう普及しています)が散らしてあると、なかなかどうして家庭料理から一歩前進!

最初からないものとしてはシイタケがあげられます。かなり本格的な店でも、スープや炒めものに入っているのはブラウンマッシュルーム(普通のマッシュルームにうっすら茶色く色がついたもので味はほぼ一緒)ばかりで、スープだと小さく切ってあってもプカプカ浮いていたりしてなかなかご愛嬌です。ところが、私達が試した中華レストランでは最南端に当たる、テ アナウの明園酒家(ミン・ガーデン)ではシイタケがふんだんに使ってあるではないですか!しかも生シイタケよりはるかに味がいいけれど割高な干しシイタケ!「こんなところで、こんなものにお目にかかれるとは・・・」。NZの中華前線、ここまで南下してました。

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「マヨネーズ」 先日、日本に帰った時に友人の叔母さんに当たる70代のご婦人にお会いしました。「毎朝のようにエグザスで泳いでる」と伺っていたので、「お若い方なんだろうな」とは想像していたものの、実際お会いして本当にビックリ。どうみても50代後半か60代前半にしか見えない若々しさで、お肌なんてピカピカ、ツヤツヤでした。ご挨拶もそこそこに呆気にとられている私に、「とうとう入れちゃったんですよ〜」と、見せて下さったものは、壁に貼られたニ畳分はありそうな大きな鏡。聞けば最近始めたエアロビを家で練習するためだそうで、ご本人は鏡が嬉しくて仕方ないご様子。

私にとっての70代のイメージは以前に新聞で読んだ、育児に戸惑う若いママのカウンセリングをして回るアメリカのボランティア女性です。「こんな年季の入った人から諭されたら、若いママも勇気が出るだろな」と思ってから、私の老後のイメージはその人に重なりました。でも70代はひょっとしたら、それほどの"老後"ではないのかもしれません。友人の叔母さんを見る限り、100歳ぐらいまで生きないと本当の老いなど実感しなさそうで、「まだまだ時間はたっぷりある」と、何だかこちらまで嬉しくなってきてしまいました。

西蘭みこと