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Vol.0069 「NZ・生活編」 〜幸福な出会い〜

あるパーティでキウイと同席する機会がありました。彼はニュージーランドの酪農品と農作物の普及のための、日本で言えば農協のような組織から派遣されている駐在員でした。「香港の牛乳はどうしてこんなに美味しくないんでしょう?ヨーグルトを作ろうとしたら分離してしまってできなかったんですが」と、いい機会だったので日頃から疑問に思っていたことを聞いてみると、「あれは牛乳じゃないから」という予想外の答えが返ってきました。

「香港産ということになっているけど、ほとんどが中国産のミルクを香港で加工し直したものだろう。香港に牛はいないからね」。最後の一言には苦笑しながら肯かざるを得ませんでした。香港はNZの2倍近い人口の600万人以上が猫の額のような狭い土地にひしめきあっているのですから、牛を飼う土地など一片たりとも残されていません。現に、ここに13年間近く住んでいますが、乳牛なるものを見たことはありません。

「分離してしまったのは、いったん水分を抜いたものに水を足した可能性があるね」と、専門家らしいご意見。「・・・ってことは、フルーツジュースの濃縮還元と同じ?つまり牛乳の水割り・・・?」。あまりの水っぽさに薄々そうではないかとを思っていましたが、「やはり技術的に可能な方法だったのか〜」、と感心するやら、がっかりするやら。「僕らは牛乳のパックを開けた時、内側を触るとどんな牛乳が入っているかだいたい分かるんだ。香港では粉っぽい感じが指先に残るね」とも。そ、そんな調べ方があったのですね。まるでマージャンの模牌(モウパイ)。確かにそこまでできる人にとっては、香港の牛乳など牛乳のうちには入らず、一種の乳飲料にしか見えないことでしょう。

「じゃ、NZの牛乳はどうしてあんなに美味しいんですか?」と話題を変えると、彼はニコリともせずに、「味は好みの問題だ」と言い切りました。「NZやオーストラリアは穀物牛だからミルクもそういう味なのさ。でも肉骨粉で育てた牛のミルクは全然違う味がする。美味しいかどうかは個人次第だろう」と淡々としたもの。自国の農産品の売り込みに来ているんだから、「是非、安全で美味しいNZ牛乳を!」ぐらい商売気のあることを言えばいいのに、と言いたいところですが、彼の生真面目っぽさがそれをさせないというよりも、香港にはNZの牛乳が上陸していないので勧めてもらっても手に入らないのです。

一消費者としてその辺の無念さをにじませながら、「どうして香港にはオーストラリアの牛乳があってNZの牛乳がないんですかね?」と、質問を続けると、彼は表情を変えずに「運ぶのが難しいんだ」と言いました。「えっ?オーストラリアができるのに?どうしてそのちょこっと先のNZからはダメなの?」という、次なる問いを見透かした彼は、「NZは小さな酪農家の集まりで資本力がないのさ。オーストラリアのように大資本経営を受け入れれば大量生産、大量輸送、大量販売が可能になるんだが、ほとんどの酪農家がそうしたがっていないんだよ」と、明快な答えを示してくれました。「みんな小規模でも自分の農場にこだわりがあるのさ。だから我々は中国という巨大市場に進出していくべきなんだが、なかなか難しいところでね」と、思わず本音がポロリ。初めて彼の顔に苦笑という表情が浮かびました。

でもその一言一言には、NZの酪農に対する誇りがにじんでおり、市場競争力という点では厳しい状況に立たされながらも、自分の目が届く範囲で生産されたものに対する、限りない愛着と自信が感じられました。消費者の中にはそれこそを求めている者も多数いるはずで、現状の流通機構では不利な立場にあっても、需給は別の方法で幸福な出会いを果たせるはずです。「ひょっとしたら彼も以前、農場にいたことがあるのかも・・・」と思わせるグラスを持った太い指に、「どうかそれまで大資本の流入を水際で食い止め、地球上からどんどん失われてしまう安全な食を守っていって欲しい」、と願をかける思いでした。

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「マヨネーズ」  NZ移住の師と仰ぐレディーDの、移住のための英語テスト、IELTSお受験体験記、始まり、始まり〜♪

試験対策ですが、うちではオットが問題集とカセットテープを買ってきて、そのためにラジカセまで購入して、子供たちの寝静まった後にイヤフォンをかぶり黙々と準備に励んでました。その傍らで私はまーったく、これっぽちに興味も示さず、完全に他人事を決め込んでいました。モロ性格の違いが出てますね。オットは真剣でした。生真面目にもきっちり時間を計って英作文の練習もやってました。しかし、私にはさっぱりやる気が出なかった。試験前日になっても問題集を手に取ることがなく、ましてやカセットテープなどラジカセに突っ込むこともなかった。

当日。さあ始まった。ヒアリングから。え?考える時間があるのかと思ったらもう次の問題にいっちゃうの?え?え?マークする時間がないよーン。読解。時間が半分経過したというのにまだ前半の文章しか読めてない。ああ、全部答えるなんて到底無理。後半の質問は読まずに選択肢睨んで適当にマークシートを埋めました。作文。あはは。これは笑って終わってしまいました。指定ワード数の半分にも満たなかったんじゃないでしょうか。スピーキング。これはもともと一番腹を決めて当日勝負に臨んだ科目。優しい試験官でした。
終了後、開口一番オットにこう言いました。「今度はちゃんと勉強してもう一回受け直す!」そう、絶対の絶対、どう考えても必要点数など足りるはずもないと確信の触感でした。よほどの正解率でなければ合格などあり得ません・・・。

ところが彼女はみごと一発合格!これこそ「幸福なお受験」?西蘭家は本日、試験に臨みます。

西蘭みこと