>"
  


Vol.0074 「生活編」 〜モノ言う人々〜

先日の日経新聞に「社長で決まる企業価値」というタイトルのコラムがありました。お読みになった方も多いかもしれませんが、カルロス・ゴーン社長で蘇った日産自動社を例に挙げ、主要上場企業300社を対象に現社長が就任してから今年10月末までにどれだけ時価総額を増やしたかを調べています。1位は武田薬品(武田国男社長)の3兆4億円。2位以下はNTTドコモ(立川敬二社長)、キャノン(御手洗冨士夫社長)、そして日産のゴーン社長と続きます。

いずれの社長も財界のキラ星のような存在でマスコミのインタビュー記事等で、特に株主でなくともその経営哲学の片鱗を漏れ聞いている人達ばかりです。コラム内でも「明快なメッセージを社内、顧客、投資家に発信してきた、いわば積極開示型が特徴」と、辣腕社長の特徴を指摘しています。こうした人達が輝いて見えるのはその有言実行の姿にあると思います。外国人のゴーン社長などは就任当初、黒船来襲に例えられ、国内工場の閉鎖では社会問題化するほどの論議を巻き起こしましたが、日産は今年過去最高益となる見通しです。

話は飛びますが、香港では先日、芸能界を舞台にちょっとした事件がありました。それは写真週刊誌がある匿名女優の目にモザイクのかかったヌード写真を掲載したのです。すぐに女優の身元が割れ、しかもその写真は彼女がかつて誘拐された時に撮影された、本人の意思とは無関係のものであることをライバル誌がスッパ抜いたことで、社会全体に衝撃が広がりました。

これに対する芸能界、市民、政府の反応は凄まじく、その対応の速さも舌を巻くものでした。この行為を断じて許さない世論があっという間に形成されたのです。映画界、教育界はもちろん運輸業界や労働組合といった30団体が一斉に新聞12紙に意見広告を出し、政府の関連当局には千件を超える抗議電話がかかりました。もちろん芸能界も黙ってはいません。言わずと知れた国際スターのジャッキー・チェン氏、香港芸能人協会会長の女性歌手アニタ・ムイ氏、ボンドガールで国際的に名を馳せたカンフースターのミッシェル・ヤオ氏などが一堂に会し、記者会見を行ったのです。

政府高官も次々に抗議の談話や掲載誌への対応を発表しました。これが雑誌発売後2日以内に起きたのです。そしてその直後には被害者女優のカリーナ・ラウ氏本人がマスコミに登場し、「私を辱めたいと思っていたのでしょうが、私は前よりずっと強くなった」と訴え、その周りをボディガードのようにジャッキー・チェン氏を始めとする大スターが取り囲んでいたのは、この件に怒りを感じたすべての人への大きな誇りとなったことでしょう。

私はこういう"モノ言う人々"をとても尊敬しています。少なくとも意思表示しないことでその場をやり過ごすより、貴いものだと思っています。黙っていれば波風が立たず、最終的に事が穏便に運ぶという例は枚挙にいとまがありません。意思表示とはそれだけリスクを負っているのです。自分の考えが通らないくらいは序の口ですが、それによって誰かが不利益を被って逆恨みをかったり、問題を指摘してしまったがために気まずくなるなど、周りの人を巻き込まざるをえなくなる可能性があるからです。そういう意味で、昨今の食品会社や電力会社の不祥事で内部告発した人達は大変なリスクを負ったことでしょう。

しかし"No risk, No return"。リスクなくして見返りも前進もありません。あるのは、今は心地がよくても根元から腐っていくぬるま湯の風呂桶です。モノ言う人達はその辺のマイナスを十分心得た上で、あえて考えを開陳しているのです。なぜ、そうするのでしょう?それは単純に、「そうした方がいいと思うから」。何かをより良いものへ、より正しいものへ、より合理的なものへ変えた方がいいと強く思っているからなのです。このささやかにして侮ることのできない人間の意思が、周りの雰囲気を変え、時には歴史さえも塗り替えてしまうのです。少年シュリーマンが「トロイという国は絶対にあったんだ!」と強く主張し、大人になって本当にその遺跡を掘り当てなかったら、人類は今でもあの偉大な歴史を昔の詩人の良くできた作り話と信じていたかもしれません。

モノ言う人々はまた、反対意見に耳を傾ける人達でもあるようです。それでも自分の主張がより優れていると思えれば更にリスクを負って相手への説得に出ます。逆に触発されて出てきた別の考えの方が正しいと思えれば、あっさりそちらに乗り換えます。別に自我を通すために自己主張しているわけではなく、より建設的に物事を進めるための主張ですから、君子は時に豹変します。これが言いたい放題の「オレの言うことが聞けないのか」式のワンマン経営と、「時価総額一兆円クラブ」への大きな道の分かれ目なのでしょう。

海外で「君は日本人らしくない」と言われる時、だいたいそれは褒め言葉であり、自分の意見を述べた直後であることが多いのは皮肉な話です。でも「日本人らしくない」と持ち上げられても腹を立てることができない状況もよく理解できます。みんな日本人がモノを言うのをもっと聞いてみたいのです。こうして耳を澄ましてもらっているうちが華なのかもしれません。始めるなら今のうち、"Tomorrow is too late."。(バリ爆破テロの犠牲者、エド・ウォーラーが敬愛していた世界一周を成し遂げたヨットマン、ピート・ゴスの言葉)

***********************************************************************************

「マヨネーズ」  先日、息子達がソファに座ってドラえもんのビデオを観ていました。何度も見ているのに、同じシーンでケタケタ笑い合っては二人で楽しんでいます。何のシーンかわかりませんが、温が「すごいな〜。しずかちゃん」と言うと、善が「だって女だから〜」と答えてます!そして二人で同時に、「そうだね〜〜」と妙に納得し合ってました?? (写真はカリーナ・ラウ事件で抗議の記者会見に臨んだ芸能関係者。背景の「天地不容」は"天地が許さない卑劣な行為"の意。この文字で新聞の一面広告も出ました)

西蘭みこと