>"
  


Vol.0104 「生活編」 〜自由・平等・恋愛〜

「世界中でアメリカ的なるものに最も抵抗しているのがフランスだ」と言ったのは、私の記憶に間違いがなければ、フランスの映画監督の故ルイ・マルです。「死刑台のエレベーター」で監督デビューを果たし、後にアメリカにわたってブルック・シールズ主演の「プリティ・ベビー」を撮った人です。アメリカで活躍した人だからこその説得力ある一言。しかし、フランス人のアメリカ嫌いは今に始まったことではなく、コカコーラ一杯飲むのにもレモンの輪切りを浮かべないと気がすまない人たちです(「だったら、飲まなけりゃいいのに」という気もしますが、そこでブツクサ言いながら飲む屈折感がフランス人らしいんです)。

一方のアメリカ人。この世の富を一身に集め、「お金で買えない物はない」と豪語したいところながら、歴史や文化はゼロのいっぱいついた小切手を切ったところでそうそう手に入るものではなく、白亜の美術館のような豪邸にサザビーズやクリスティーズで競り落としてきた高価な絵を飾ってもどこか安心できません。それを鼻先でせせら笑われている気がして、どうも虫が好かない、油断のならないフランス人は目の上のたんこぶ。パリに観光に行っても英語をしゃべろうともしてくれず、一目置いてくれないどころか冷たいのなんの・・・。

今頃ブッシュ大統領のはらわたは煮えくり返っていることでしょう。アメリカ政府はイギリスとスペインと共同で国連安全保障理事会にイラクへの武力行使正当化の容認決議案の修正案を提出して、イラク側は今月17日までに武装解除に応じなければならないとし、それが守られなければいよいよ・・と、昨年の秋から何度も振り上げたこぶしをまたも高く挙げていたところでした。しかし、安保理での決議案の採択には国連常任理事国5ヶ国が満場一致で賛成することが必須ですが、フランスが真っ先に拒否権行使を言明したのです。それに続いて最近はめっきり仲良くなっていて、共同油田の開発に余念がなかったロシアまでが反対に回り、17日の期限を先延ばしせざるを得なくなってしまいました。

フランスのシラク大統領は「フランスは反対票を投じる。イラクの武装解除という我々の目標達成のために戦争をする理由はない」と態度を明確にしています。おまけに「常任理事国5ヶ国の1ヶ国でも反対に回れば、賛成多数でも決議案は採択されない」と、ダメ押しの発言で自らがカードを切ったことを強く世界に訴えました。この明確な「ノン」に喝采を贈った人が世界中には大勢いたことでしょう。私もその一人です。武力行使という人殺しを回りくどく言った以外の方法での解決の可能性を徹底的に探るべきだと思っています。

フランスで暮らしていた時、今は身売りしてノボテルになってしまったパリの日航ホテルで半年ほどアルバイトをしていました。休憩時間によく目の前を流れるセーヌ川の中州の公園に出かけていきました。周りを緑で覆われたその一角の突先には小さな自由の女神像が立っています。この目で見たことはありませんが、周りを睥睨するようなニューヨークの自由の女神像と比べたら拍子抜けするほど小さく、なんだかちゃちにさえ見えました。日本人観光客もよく訪れる名所でもあったので「案外小さいんだね」と、誰もが同じことを口にしていたものです。でもこの女神像こそが本来のもので、ニューヨークにあるものはフランスがアメリカ建国100周年を祝って贈ったものなのです。

朝日新聞の「天声人語」にあったと夫が教えてくれましたが、アメリカ人はそれがフランスからの贈り物であることを知らない人もいるとのこと。でも、「自由・平等・博愛」はフランス市民が自らの血を流したフランス革命で勝ち取ったもので、この思想だけは今でも脈々と受け継がれている気がします。ラテンっぽいいい加減さと、根拠のない誇り高さに辟易させられることも多々あるフランス人ですが、物事の原点にはとても忠実で、それを頑なに守る人たちでもあります。ただし、「博愛」は往々にして「恋愛」に置き換えた方がいいかもしれませんが・・・。これからの1週間が開戦までの最後の日々とならないことを心から祈りつつ、今日のところは、Vive la France!(フランス万歳!)

***********************************************************************************

「マヨネーズ」 愛猫のチャッチャ(茶色のトラ猫)が糖尿病になってしまいました。かれこれ11歳なので、人間の年でいえば56歳。中年も終盤の年齢です。シンガポール生まれで図体は大きいのですが性格はとても穏やかな猫です。いつも一緒に生まれた弟のピッピ(白い巨猫)と仲睦まじくしています。それが突然、体重が1ヶ月で2割も落ちるほど劇痩せしてしまいビックリ。ちょうど予防注射で獣医にかかるところだったので調べてもらうと、尋常ならぬ事態であることがはっきりしました。

先生は最初から糖尿病を疑っていましたが、キャットフードを変えたせいだろうかと、食べ物を変えたり、あれこれ試しても体重はいっこうに戻らず、水ばかり飲んでいます。ネットで検索すると「多飲多尿」、「劇痩せ」とチャッチャと同じ症状が繰り返し出てきて観念しました。きちんと検査を受けると、間違いなく糖尿病でした。からだの糖分を体内に留められなくなってしまったのです。

この11年間、私達は猫たちにどれほど慰められたことでしょう。子供ができるまでは間違いなく夫婦のかすがいでしたし、子供にとっては兄貴であり、頭が下がるくらい我慢強い遊び相手であり、友達であり、愛情を注ぐペットでもあります。朝起きると寝室の左右に狛犬のように待機していて、「ニャ〜(おはよう)」と言ってくれるし、メルマガを書く時は膝に乗って見守ってくれます。一生インスリンを打つ生活になるかもしれないけれど、かけがえのない家族。できる限りの愛情のお返しをしながら、ともに頑張ろうと思います。

西蘭みこと

(写真は「NZヘラルド」に掲載されたロイターからのもの)