>"
  


Vol.0116 「NZ・生活編」 〜キウカジで行こう!〜

"キウイ・カジュアル"、略して"キウカジ"と私が勝手に呼んでいるニュージーランド人のファッションは、@シンプル、A実用的、B安上がり、が真骨頂です。スポーツを愛する人が多いせいか、カジュアルのさり気ない着こなしはとても似合っています。と言っても特別な服というわけではなく、どうと言うことはない単品の組み合わせなのですが、こなれた感じで、安い服でも安っぽくならないところが"キウカジ"ならではです。

どういうものかと言えば、夏なら老若男女問わずにTシャツにショートパンツ。足元はスニーカー、サンダル、ローファー、デッキシューズ、裸足とさまざまですが、圧倒的に素足が多く、その足がまた生っ白くなく、程よく日焼けしているため健康的で颯爽とした印象になります。ポロシャツもありますが、ゴルフシャツはパス。ゴルフウェアやテニスウェアを街着にはしません(これはイギリス人も同じ)。

強い日差しにはしっかりとサングラスをかけ、日焼け止めクリームを塗って対応します。ほとんどの男性は短髪で、女性は髪を後ろに小さくまとめたりキャップを被ったりして、顔まわりをスキッとさせて全体のバランスをとっています。眉を剃ったり抜いたりしている男の人は皆無。女の人も紫外線対策は怠らないものの、カジュアルの時はアウトドアに相応しくノーメーク。でも、オフィスではきちんと化粧をしている人もいるので、ONとOFFのメリハリが実にイイ感じ。

少し肌寒くなればこれにフリースのベストを重ねるものの、手足の自由は維持します。もう一段寒くなると、いよいよフリースのジャケットやトレーナー、セーターのお出ましとなりますが、ボトムはけっこうショートパンツに素足が続きます。そして、もう一段の寒さで男性ならチノやジーンズのパンツへと移行していくようです。足元もブーツという選択肢が出てきます。女性もジーンズを始めパンツが主流でトップの推移も男性と大差ありません。いずれにしても装飾性の強いアイテムが少ないので全体にユニセックスな印象で、フリースや更に寒くなった時のダウンでは男女兼用のケースも多々ありと見ています。

これだけなら、「なあんだ。ぜんぜんオシャレじゃないじゃん」と、思われるかもしれません。現地情報サイトの掲示版などでも「NZにはロクな服がないので、日本から持ってくることをお勧めします」などという書き込みを目にすることもままあります。ところが、私の目には誰でも買える無難なユニクロよりも、徹底的に着込んでヨレヨレになっていたり、洗いざらしで穴なんか開いていたりする"キウカジ"の方が断然ステキに見えるのです。

これを「あばたもえくぼの逆偏見」と言われてしまえばそれまでなのですが、ここまで服を単なるモノとして扱う人々を私は他に知りません。中には最低限の社会的ルールを守り、暑さ寒さをしのぐためだけに服を着ているのではないかと思われるようなキウイもいます。こういう人には着ることを楽しんだり、その服を着ることで少しでも自分を良く見せようという意志がまるっきり感じられないのです。彼らにとっては服も芝刈り機同様に単なるモノであり、「安くて、丈夫で、扱いがカンタンであればなお良し」というところなのでしょう。高価な芝刈り機を自慢する人があまりいないように、ブランドの服など無用の長物。必要な時にもらうか、安く手に入れるかすれば、どちらも事が足りるのです。

服の持つ装飾性や社会性をまったく必要としなければ、「何を着るか?」で頭を悩ます必要もありません。サイズが合って、手元にあるものを天候に合わせて足したり引いたりするだけでいいのです。洗濯が間に合う枚数だけ持っていればよいので、数も少なくて済みます。自分を飾らず、実用的で安上がりという実質的なものを求める結果、どの服もきわめてシンプルかつベーシックで、コーディネートも(そういうものがあればですが)楽です。

"キウカジ"では外見を取り繕わない分、着ている本人の印象が前面に押し出されてきます。日焼けした顔に深い皺の刻まれた初老の男性が、元は純白だったんであろうTシャツの上に汚れたつなぎを着て夕暮れの畑に立っていたりすれば、誰がファインダーを向けても立派な被写体になることでしょう。彼の存在感そのものが着ているものを超えてこちらに迫ってくるからです。その際、服は完全な引き立て役でしかなく、商品価値の見出せない古く、ほつれたような服でも、本人が堂々とその中心に収まっているせいか、みすぼらしく見えないから不思議です。

流行を意識しすぎるあまり、お金も労力もつぎ込んでいるにもかかわらず、自分が何を着ているのか、イケてるのかイケてないのかもわからなくなってしまっているような人にとっては、高価で最新の物を着ていても、つねに不安、緊張、混乱が残ることでしょう。少しでも自分より上手だと思われる人が現われれば、自信もなくなり、せっかくのコーディネートも一瞬にして虚しくなってしまいます。女性だったら大なり小なり、こんな経験をしたことがあることでしょう。これは果てしない相対評価の世界なのです。「着るモノに対する徹底した無関心」とでも呼びたいような"キウカジ"の"ファッション哲学"は、この対極に広がる、自由で大らかな地平線なのです。

***********************************************************************************

「マヨネーズ」 服はかなり好きな方です。ここ5年くらいはアメリカのBCBG一辺倒で、カジュアルフライデーの金曜日以外は、毎日なんらかのBCBGを着ていました。でも最近は"キウカジ"に急旋回しています。ヴィンテージ物などではないただの古着も、パリの蚤の市でその楽しさを覚え抵抗はありません。今は手持ち服のリフォームがしたくてたまりません。好きで買った服ですから流行から外れてもやっぱり愛着がありますからね。

西蘭みこと