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Vol.0119 「NZ編」 〜メドウバンク・スクール〜

「ボク、ニュージーランドなんて絶対行かないからね!どうして行かなくちゃいけないの?香港にいればいいじゃん」と、ことあるたびに長男・温は涙ぐみました。我慢している感情が一気に吹き出してくるようです。それ自体は小さな子供には酷な話です。しかし、私はこみ上げてくる想いをぐっと呑み込み、「今はわからないかもしれないけど、いつか大人になった時に"NZに来て良かった"と思ってくれたらいいな。そうなるようにママは一生懸命がんばるから、嫌かもしれないけど一緒に来てね」という、本心を繰り返しました。「行かなくて済むかも」という期待を持たせることは、もっと酷なことだと信じていました。

私の突然の思いつきで2年前に決まった西蘭家の移住計画は、昨年秋に夫もいよいよその気になってくれたことで一気に話が進み、最終的に今年3月の移住申請に漕ぎ着けました。しかし、子供たちは親が朝から英語の試験を受けに行ったりしている脇で、よそよそしくしていました。特に長男・温は事情が分かる年齢だけに事の推移に不安そうで、次男・善も無言でした。香港生まれの彼らの複雑な胸のうちは十分に察せられましたが、親の決心は揺るぎなく、私はできるだけ誠意をもって事情を説明しながら事を進めました。

私たちは今年2月初旬、オークランド中心部から車で10分ほど行った小学校、「メドウバンク・スクール」に出かけました。そこは温のかつての担任の先生が香港から帰国して働き始めた学校で、私たちの計画に理解を示してくれている彼女が気を利かせて呼んでくれたのです。「校長に会ってみる?」と気遣ってくれましたが、さすがにそれは遠慮しました。学校は閑静な住宅街の一角で、NZではごく普通なのでしょうが広い芝生のグランドがあり、その脇にL字型に校舎が並んでいます。息子たちは他の子供たちの視線を浴びながら緊張した面持ちでした。

しかし、彼女の案内で校内を回っているうちに緊張もほぐれ、私はたくさん写真を撮らせてもらいました。木の机。ソファーやクッション、子供サイズの肘掛椅子まである図書室。どこの部屋も陽光が明るく暖かみがある一方で、最新のパソコンも完備しており、とても恵まれた環境に見えました。ひととおり説明を受けた後、「ここまでは高学年キャンパスなの。反対側に低学年キャンパスがあるから行ってみる?」と言われて、ビックリ。こんなに広くて充実した施設が、学校の半分に過ぎなかったのです。キャンパスだなんて、まるで大学のようです。

低学年キャンパスはちょっとした谷を挟んだ反対側で、間にはしっかりとした吊り橋がかかっています。下には川が流れ、その両側は雑木林というよりもレイン・フォレストと形容したいような鬱蒼とした緑で、広葉樹の低木と競い合うように羊歯が鮮やかな葉を広げています。「これも学校の敷地?」と、目を丸くする私たちに、先生は「私も初めて来た時はビックリしたわよ。学校の施設自体は他の学校と大差ないけど、この立地だけはユニークよね。いいでしょう?」と答えました。橋の上からは小川のせせらぎのすぐ脇に半円の階段状の石が積まれ、野外ステージが建設されているところが良く見えました。

低学年キャンパスには独立した建物の歯科もあり、息子たちがついつい見入ってしまうような遊具もたくさんありました。図書室はカラフルにレイアウトされた開放的な空間で、高学年用とは趣が違っています。年齢が低いせいか、立ち止まったり遠巻きにしてこちらを見ている子が多くなり、息子たちも自分たちにより年恰好が近い子に混じってキョロキョロし始め、教室やグランドでも心持ち熱心に見ています。「ステキな学校ね」と温に言うと、「ボクの学校だっていいけど」と、自分の学校を引き合いに出しながらも、「でも橋はないね」と答えました。子供の目にも環境の良さがわかったようです。

生徒を見てみると5〜6割が白人で、残りがマオリやアイランダー(私には見分けがつきません)とアジア人が各半々ぐらいに見えました。親元を離れて来ている韓国人留学生も相当いるそうです。この比率は息子たちの学校とよく似ており、実際はマオリやアイランダーの代わりに香港人を含む中国人、残りがそれ以外のアジア人となります。「これだったらあまり違和感なく横滑りして来れるんじゃないかな?」と、親が甘い皮算用をしている横で息子たちも目を輝かせています。

ランチの時間となり、子供たちがサンドイッチの入ったタッパーを持っていっせいに飛び出して来ました。座ったり遊んだりしながら食べている姿は息子たちの学校と同じです。二人は同じ制服さえ着ていたら、今にも走って行ってしまいそうなほど子供たちに目が釘付けでした。そして兄弟で何やら話しています。その時、「どう?ニュージーランドの学校?」と聞いてみると、「ママ、この学校入りたい。ここだったら引っ越して来てもいいよ」と、いきなり善が言い出しました。予期せぬ反応こちらが面食らっていると、温が横で静かに微笑んでいます。これが二人で話し合った結果なのでしょう。家族4人の気持ちが初めて一つになった瞬間でした。

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「マヨネーズ」 香港からおもちゃのラグビーボールを持ってきましたが、公園で楕円のボールなど持って飛び出して行ってもだれも寄って来ません。日本はサッカー一色です。今いる家の近くでは柔道の道場も見つからなかったため、温と善は近所の幼稚園のOBを中心としたサッカーチームに入ることになりました。二人とも「試合はいつだろう?」、「ユニホームはどんなかなぁ?」と大張り切りですが、まずはルールを覚えようね♪

これで平日のガス抜きが強化され、9時にでも寝てくれたら一人親の私としては万万歳!

西蘭みこと