>"
  


Vol.0125 「NZ編」 〜QTの中のアジア〜

2002年1月。フロントガラスにたたきつけてくる大雨の中、遠くにぼんやりと明かりが見えてきた時はさすがにホッとしました。私たちがクイーンズタウンに着いたのは夜10時過ぎで、後部座席では子供たちがぐっすり眠り込んでいました。しかし、モーテルの予約はしておらず、雨の中のこんな時間に中国正月のアジア人でごった返しているであろう町で、宿探しをしなければなりませんでした。「町に入る手前から狙っていけば何とかなるだろう。」 私たちはこれまでの経験から部屋探しにそこそこ自信を持っていました。

と・こ・ろ・が・・・。かなり手前からでもライトに映し出されるのは「NO VACANCY」の冷たいサインばかり。さすがに慌て、泊まれそうなところはつぶさに見ていくことにしましたが、そうこうしているうちに、とうとう町に入ってしまいました。行く手にはこうこうとライトが灯る真新しいホテルが不夜城のようにそびえ、美しいワカプティ湖畔にはモーテルよりも豪華な造りのホリデービラと呼ばれる、より大型の新しい宿泊施設が並んでいます。9年前の1983年に来た時と比べ、ずい分趣きが違っているのが夜目にもはっきりと見て取れました。「だいぶバブってるね。でも、これだけ客室数が増えてればどこか泊まれるよ」と、私たちはまだまだ楽観的でした。

と・こ・ろ・が・・・。何でも割高につく町だけに、宿泊予算をいつもの1泊100NZドル(約7000円)ちょっとから、一気に50%増しの160〜180NZドルに引き上げて臨んだものの、予算の大小にかかわらず空室というものがまったく見つかりません。10軒近くに断られ、「もしかしたら車中泊?」と、さすがに不安になってきました。更に予算を上積みし、「こんなにバブリーなところ、絶対泊まりたくないよね」と言って通り過ぎた、カジノと見まごう先ほどの不夜城にすごすごと引き返したものの、ここでも「満室です」と、にべもなく断られてしまいました。

こうなったら奥の手。「NO VACANCY」と出ていても部屋数の多そうなところを片っ端から当たっていくことにしました。大きいところは必ず予約客を抱えており、こんな時間になっても現れなければ部屋が余るはずです。そうなればどんなモーテル経営者だって、目の前の飛び込み客に部屋を譲り一室でも空室を減らそうとするでしょう。私は予約客が多そうなチェーン系モーテルを狙って、呼び鈴を鳴らし始めました。

何軒目かのホリデービラで、インターホン越しに「2泊以上泊まるなら・・」と言われました。もともと2泊の予定だったので、「構わないけど」と答えると、「じゃあ、2泊で500NZドルだ」と言われました。金額を聞いて「やられた!」と思いましたが、こんな時間の子連れ、しかも大雨、足元を完全に見られた状態で値段交渉も何もありません。心を無にしてチェックインを済ませました。子供用のエキストラベッドを入れてもらった頃には、時計は12時を回っていましたが、なんとか車中泊は免れました。

部屋は一見豪華でモダンながら、全体はちぐはぐでした。それがなんともアジア的です。急成長を遂げた90年代のアジアでは大理石をふんだんに使ったイタリア風会員制クラブ、ベルサイユ宮殿を模したマンション、南仏プロバンス風レストランなど、所得水準が上がるに連れ、一見ソレ風ながら、実際は訳の分からない建物や店が増え、その中で中華系の人たちがマージャンやカラオケに興じていました。そのビラは新しいのに即座に古くなっていくような寿命の短さ、高級そうなのに薄っぺらな安普請、センスよくまとめようとしながらコテコテの装飾品という、自己矛盾に満ちていました。

「妙なところに来てしまったな」と、思いながらもベッドで眠れることに感謝して眠りにつきました。翌朝。明るいところで改めて目にしたビラは、一段とアジア的でした。建物そのものは洋風ですが、植えたてらしい樹木はまだまばらで高さも1メートルほどしかなく、生え揃うまで数年はかかりそうです。インドネシアのバリのヌサドゥアに次々に建った大型ホテル開業時の庭もこんな感じでした。階段を下りていくとそのまま湖に出られますが、その石段も両側の花壇もコンクリートの打ちっ放しでなんとも殺風景です。明るい陽射しのもと、敷地の広さに比べ、労力と時間、つまりコストを削ったことが一目瞭然の建築を目の当たりにし、私は朝の肌寒い風に揺れる湖面のように、複雑な心境でした。(つづく)

***********************************************************************************

「マヨネーズ」 やっちゃいました〜☆ 日本で、千葉は松戸市の駅前のかなりの大通りで、裸足で歩いちゃいました。別にここに来てまで「キウイしちゃおう!」と思い立ったわけではないのですが、たまたま履いていたミュールの片方が突然壊れ、ヒールの高さが10センチはあったので、どう頑張っても片方だけ履いて歩くのは無理でした。やむにやまれぬ事情に、「ええぃ・・」と裸足になり、最寄の靴屋まですたすたと歩き始めました。

いざ歩いてみると、日本の道路事情、というか歩道事情の良さに感激♪ アスファルトのきめ細かさといい、場所によってはタイルの石畳になっていて更にツルツルなことといい、ニュージーランドで足の裏が痛いのを我慢しながら、歯を食いしばって歩いたことから比べると、なんとも恵まれた状態です。

周りの反応は、なんとなく見てはならないものを目にしてしまったという感じで、あからさまにジロジロ見る人がいない代わりに、こっちを見ているのが自然な横断歩道の向こう側の人などはそれこそ、じ―――――と、不思議そうにしっかりと見てました。「こんなにいい歩道を、みんながみんな靴履いて歩いてるなんてもったいないっ!」と、訳のわからないことを考えながら、入梅前のひと時のノーシューズを楽しみました。

西蘭みこと