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Vol.0145 「生活編」 〜主婦のぬかるみ〜

夏休み旅行が終わった8月から本格的な専業主婦となって早3週間。スタートとしては子供が24時間一緒にいるという、最も厳しいタイミングになりました。しかし、つべこべ言ってる余裕はなく、すぐに本番開始!いちおう日本でも4ヶ月近く主婦をやってきていたので、練習はそこそこ済んでいるつもりでした。しかし、いざ始めてみると想像以上にタイヘンで、最初の1週間はそれこそ必死でした。

何がタイヘンって、一人の時間がまったくないことです。実質的に一人になれないこともさることながら、常に家族のことを考え続けるという意味では、それこそまったく個人の時間がなくなってしまったように感じました。朝起きた瞬間から、「朝食は何にしよう」、「天気はどうか、洗濯はできるか?」、「ネコのトイレは?チャッチャ(糖尿病のとらネコ)にインシュリンを打たなくちゃ」と、考えることが怒涛のように押し寄せてきます。サラリーママだった頃は、せいぜい「今日はなに着て行こう?」くらいなもので、あとは新聞に目を通しながら朝食をとる傍ら、必要なことをお手伝いさんに頼んでいけばよかったのです。

日中も段取りに慣れていないこともあり、いたずらに家の中をクルクル回るばかりでなかなか用事がはかどらず、気がつくとランチ・タイム。食事が終わって後片付けをしながらも午後に出かける日であれば(週3〜4日)、夕食用の米研ぎも済ませ、「研ぎ汁は植物にいい」と聞いてからはそれをベランダの花に撒きに行き、その傍らで夕食の煮物を煮たり、電話に出たり、子供の相手をしたり・・と、同時にいろいろなことをしなくてはなりません。

その間にも、スコールが降ってくれば即座に洗濯物を取り込まなくてはいけないし、子供に出かける準備をさせ、自分も冷たい飲み物を用意して持ち物をチェックし、カンタンに身づくろいをしてチラリと鏡ぐらいのぞき(1年前に化粧を止めてたのは大正解でした)、ネコの水とエサが足りているかを確認し、戸締りをしてやっとレッツゴー。出かける前から、かなりぐったりです。それでも、「あっ、ケータイ忘れた!」、「あっ、日焼け止めがない」と、あたふたと再びドアを開けることもしばしば。そんなマンガチックな母親を、子供たちはエレベーターのドアボタンを押しながら黙って待っていてくれます。

ある日、郵便ポストのカギがかかりにくくてガチャガチャやっていると、エレベーターの中から長男・温が、「ママ、がんばってね。これからはハウスワイフなんだからさ」と、励ましてくれました。このマンションに越してきてかれこれ2年。これまでのタクシー三昧の生活で、普段の出入りのほとんどは車寄せのあるもう一つの玄関を使っていたため、手紙をとるのはお手伝いさん任せで、お恥ずかしながら私はポストを開けたことすらなく、ドアの調子が悪いことなどまったく知りませんでした。

「ポストのドアって調子ワルかったの?」と恐る恐る息子たちに聞いてみると、「うん、でもジーナ(お手伝いさんの名前)はいつもカンタンに閉めてたよ」とのこと。夫にも同じ質問をしてみると、「そうだね。けっこう閉めにくいね」とのこと。「そっか、夫も知ってたのか・・・」と、今後の道のりの遠さを思い知りながら、「まぁ、調子ワルいんだったら仕方ないよネ」と、妙に割り切ったりもしました。今ではコツも覚え、3回に1回ぐらいはすんなり閉まるようになりました。

「そろそろYシャツがないんだけど、アイロンは?」、「ママ、○○ってどこにしまった?」、「ネコが吐いちゃった」、「もう麦茶ないの?」、「電話だよ、△△のママ」、「雨降ってきたよ!」、「寝たいんだけど、シーツが敷いてなくて・・」、「子供のトイレが汚いぞ。あいつらヘタだからなぁ」と、ひっきりなしに声がかかるかと思えば、「一緒に遊ぼう!ボク、アバレンジャーね。ママは怪獣!」といきなり蹴りがはいってきたり。外出から戻ってドタバタと作った夕食がやっと終わって、ホッ〜〜と一息ついた瞬間に3人がいっせいに「デザートは?」。

自分の至らなさを思い知らされる毎日。家族の期待に応えようとすればするほど、私はズブズブとはまっていきました。そのうち、これは「愛情」という名のぬかるみで、決して底にたどりつかない深い深い沼だということに気がつきました。「このままでは溺れてしまう」と、早々にその危険を察した私は自分の足の立たない深みには行かないことにしました。愛情に限りはありませんが、1日という時間には限りがあります。限られた時間内でできることにも、もちろん限界があります。ですから、「やるべきこと」と「それ以上」の部分を混同しないようにし、できないことは諦めることにしました。私の「やるべきこと」を家族に明白にした上で、自分なりに優先順位をつけ、なんとか溺死を免れました。(つづく)

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「マヨネーズ」 「18才になってケッコンできるようになったら、アイラとケッコンしてクック・アイランドに行って住むんだ」。6才の善の夢です。アイラは彼が熱を上げている女の子。彼は南太平洋に浮かぶその島のラグビーを見てから、すっかりごひいきに。テレビの天気予報でクック・アイランドのお天気をやらないのが非常に意外で不満な様子。

「どうしてそこに行って住みたいの?」と素朴な質問を投げかけると、「ママ、知らないの?クック・アイランドってクックの国だよ。み〜んな、クックなの。善もお料理じょうずになりたいな〜」 「!!!!」 どうやら彼はCook Islandsとはコックの国だと思い込んでいたようです。確かに英語のスペルは一緒だけど。う〜〜ん、彼の夢を頭ごなしに否定するのもなんだし・・・。「あのねぇ〜、昔ねぇ〜、キャプテン・クックっていう人がいてねぇ〜、その人がその島を見つけたみたいよ〜」と、控えめに言ってはみたものの、聞いてない、聞いてない。アイラと国民みんなの白いコックさんスタイルで頭はいっぱいのよう。

西蘭みこと