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Vol.0211 「NZ編」 〜南半球のアクエリアン その2〜

3月末、ニュージーランドで3年来検討されてきた鳴り物入りの大型計画「プロジェクトアクア」の中止が決定しました。この計画は国内最大の国営電力公社メリディアン電力が進めていたもので、南島のサウス・カンタベリー地方のワイタキ川下流に総工費12億NZドル(約850億円)をかけて、2008年までに大規模水力発電所を建設するという内容でした。当初予定では、これにより国内発電量が8%押し上げられるはずでした。公社としては電力の安定供給を図ることで、電力不足解決の一助にするつもりだったのです。
(←「NZヘラルド」より)

計画そのものは"sounds good"でしたが、最終的に失敗に終わりました。中止決定の際には連日メディアが大きく取り上げ、公社側トップ、政府閣僚、著名評論家などが入れ替わり立ち代り意見を述べ、それを読むだけでもとても興味深いものでした。しかし、「ところで、計画中止の代替案は?」となると、「まずは節電!」といったところが精一杯で、供給サイドでの新たな具体案がまったくないまま廃案だけがさっさと決まってしまったのです。

その辺のニュアンスをホジソン・エネルギー相のコメントが上手く伝えています。"NZの発電計画は「プロジェクトアクア」の中止決定を受け、4年分後退してしまった。電力料金は代替案が水力発電より割高となるため、最大1%値上がりするであろう。現時点では計画の穴を埋める代替案を見つけることが肝要である"と。4年分の後退云々は致しかたないとして、「代替案がないのに値上がり幅なんか示しちゃっていいの〜?」と思いながらも、なおも読み進めていくと更にビックリ!

"「プロジェクトアクア」は2008年までは稼動しない予定だったため、それ以前の電力不足をこの計画のせいにすることはできない。"ということは、「どっちにしても電力不足は避けられないってこと?代替案どころか、根本的に追加案が必要だったのでは?」と、思ってしまうものの、担当大臣がここまでしれっと言っている以上、外野は何をかいわんやです。しかし、2008年まであと丸4年もないというのに、こんな短期間のエネルギー見通しも定まっていないとは!

この大胆さ!この潔さ!この前後の見境のなさ!「う〜〜ん、アクエリアンっぽいな〜♪」と、一同輩として、あごに手をやり思わずパソコンの前でニヤつく私。これが個人の話で、「結婚式ドタキャンしちゃってさ〜」というのなら、フムフムと聞いて終わりですが、国家プロジェクト並みの計画となるとそうはいかないはずですが、かの国ではいってしまうようなのです。計画中止の理由はいろいろ挙がっていますが、止めを刺したと思われるのが水利権問題です。

公社側は遥か遠くテカポ湖からワイタキ川上流に流れ込む、すべての水源の利用を主張していましたが、去年になって農家255世帯からなる「アオラキ・ウォーター・トラスト」がテカポ湖からの取水のための用水路建設計画をぶち上げ、双方の"水盗り物語"は法廷に持ち込まれました。今は高裁の段階で、当然ながら更に争われることでしょう。長い訴訟期間とそれに伴う費用は一銭のカネも生んでいない新規事業には致命的です。他にも周辺住民への保障や環境への事前調査など、コストを押し上げる要因はいくらでもあります。

しかも、こうした事前のお膳立てへの法的裏付けとなる「資源管理法」なる法律まであり、住民や環境保護団体などの反対派は当然ながらこの法案を盾に計画見直しを迫ります。その結果、企業にとって大型計画が非常に進めにくい環境にあり、メリディアンのみならず他の電力会社も、この法案が新規発電所計画を具体化できない一因であることを認めています。コスト見合いで計画の整合性がなくなれば、"ダムを造っても元がとれない→赤字計画では銀行が融資を見合わせる→カネがなければダムが造れない→最初に戻る"ということになり、計画は自然死していきます。

電力不足は深刻な問題です。しかし、この問題を通じて示された、一度失ってしまえば取り返しのつかない環境問題などを徹底的に突き詰めるという原理原則から出発し、最終的にそこに帰着する姿勢は、非常にアクエリアンっぽいと思いました。代替案もなければ妥協もせず、「環境!環境!」の一点張り。頑固というか、純粋というか(笑) しかし、彼らは本来の電力不足という問題が解決していないことは十分承知しているので、そこからの不便は甘んじて受ける覚悟のようです。この主義主張への自己責任(最近、日本ですっかり流行った言葉ですが)の自覚、辛抱強さを兼ね備えているのもアクエリアンです。

アクエリアンは闇雲に自己主張を通そうとしているのではありません。実際、どうでもいいことには非常に寛容、大雑把です。しかし、正義に照らし「ここは引けない」となると、"ここで遭ったが百年目"という強敵に豹変します。国営企業相手に裁判を闘っている「アオラキ・ウォーター・トラスト」の農家の精神的、金銭的負担は尋常でないと思われますが、きっと背後に彼らの主張に賛同するたくさんの人たちがいるのでしょう。どういう顔ぶれの人なのか興味をそそられるところです。最初に聞いてみたいのは、「誕生日はいつですか?」
(つづく)

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「マヨネーズ」 代替案が何になるのか興味津々ですが、あーだこーだ言っているうちに2008年などすぐ来てしまいそう(笑)。しかし、原子力発電だけはいっこうに選択肢として浮上してこないところはさすがです。在住の友人も、「原発を造るくらいなら、ここの人は喜んで一日数時間の停電を受け入れるよ」とのこと。この辺もアクエリアン?

西蘭みこと