Vol.0344 NZ編 〜選挙に行こう!−アメとアメ〜              2005年9月14日

日本の総選挙が終わりましたね。ニュージーランドは今週末9月17日が投票日です。選挙戦が始まるまで、国民の一番の関心事は、「医療」「治安」「教育」などでした。公約にするには(今風にはマニフェストですかね^^;)、日本人には今ひとつピンとこないものばかりでしょうが、NZではどれも深刻な問題です。移住後、実際に見聞するにつけ、こうした問題に何度仰天させられたことか。何がそんなに深刻なんでしょう。    (大きな交差点はどこもこんな感じです→)

まず「医療」。この国では日本のような国民健康保険制度がない代わりに、政府が補償する無料医療が看板です。それだけ聞けばけっこうな話なのですが、現実は公共医療制度がパンク寸前で、平たく言ってしまうと、「なかなか医者に会えない、治療してもらえない」という状態です。近所の開業医から公立病院の専門医を紹介してもらっても、初診までに何ヶ月もかかり、やっと手術だ放射線治療だとなっても、これまた何ヶ月、人によっては1年以上の待ち時間という信じがたい現状がNZの実情なのです。

そのためキウイの4人に1人は、「何かあったら有料の私立病院に駆け込もう」と医療保険に入って自衛しているそうです。しかし、大きな私立の総合病院があるのは都市部に限られ、私立病院も慢性的に混んでいるため、緊急でない場合は予約がないと診療してもらえなかったり、開業医でさえ新規の患者を受け付けていなかったりします。当然ながら、手術を待つ間に病状が悪化し、最悪、亡くなってしまうケースもあります。

次に「治安」。昨年、111番通報をして助けを求めた若い女性に対し、警察がタクシーを手配したという前代未聞の事件がありました。タクシーが行き先を間違えたこともあり、最終的に女性は行方不明、事件は迷宮入りとなりました。これには私たちのような外国人のみならず、キウイも仰天、怒髪天を突く、でした。「この国では通報してもタクシーが来ればいい方、最悪何も来ないかも」という現実を肝に銘じた事件でした。

警察の弁明は「人手不足」に尽きました。キウイ以外の人には冗談のように聞こえるかもしれませんが、確かにNZは、先進国の中では警官1人がカバーする人数が多く、以前よりイギリスから警察官を「輸入」するなど、あの手この手のリクルートが繰り広げられてきました。折りしもこの好景気。民間企業でさえ人材不足に悩んでいるのですから、訓練に時間を要する警官となると、なかなかなり手がいないようです。背景には決定的な予算不足もあります。報酬が良ければ好景気でも人を集められることでしょう。

そして「教育」。メルマガ「学校チャチャチャ」で書きかけ中断したままになっていますが(大汗^^A)、子どもを公立校に通わせている親として、「これが無料の義務教育?」と疑問に思うことは多々あります。任意といえども寄付金(年間でゼロから、小学校で3万円、高校で6万円まで学校によりさまざま)を断るのは、相当の覚悟がいることもよくわかりました。学業の内容も心配です。「ママ、オークランド・グラマー(オークランド一と言われている有名公立男子高校)でも、まだ九九やってんだって。」と、そこに通うスカウトの先輩から聞いてきた温はニヤニヤ。NZの高校は日本の中高一貫校に相当するため中学生の年齢の生徒も含まれますが、それにしても九九とは・・・。

ところが、いざ選挙戦のフタが開いたとたん、すべての公約は「減税」に一本化されてしまいました。政権奪回を狙う国民党が、"実弾"として大型減税を引っさげてきたのに対し、与党労働党も小粒の"弾"で応戦したからです。「政権を狙うとなると、これしかないのかな〜?」と思いつつも、国民党減税案の原資のかなりが借り入れとわかるや、鼻白む思いでした。これでは国からアメをもらう代わりに、大切な食いぶちを供出するようなものです。(国の借金を返すのは、けっきょく国民なのですから)

財政が悪化すれば通貨安を招き、NZドル安になれば輸入インフレが進み(ガソリンも一層割高に)、昨今の賃金インフレ、原油高とともに一段とインフレが進んでしまう恐れがあります。そうなれば減税での家計へのプラス分など、あっという間に吹き飛んでしまうでしょう。しかし、国としての借金は残ります。インフレ沈静化のために更に金利を引き上げれば、景気悪化は必至。最悪の場合、リストラ、企業倒産と負のスパイラルに入ってしまうことも、これだけ小規模な経済ではまんざら絵空事でもありません。

しかもそれを、中央銀行総裁として14年間もインフレと戦い、NZドルの安定に努めてきたドン・ブラッシュ党首率いる国民党が打ち出しているとなると、「政治の真意とは?」と、思わずため息が出ます。彼らこそ、大型減税が何をもたらすか知り抜いているはずです。しかも、景気が悪化した時の政局運営がどれだけ困難かは万国共通です。議員一年生コンビ(陰の内閣の財務相とも1期3年の経験のみ。)がどう乗り切るのか?

それにも増してがっかりだったのは、労働党もアメを配ったことです。2期6年も政権を担当し、この国の問題がどこにあるのか知り尽くしている彼らが、個人ではどうにもならない「医療」「安全」といった急務を棚上げにしたまま、限りある原資を「減税」という包み紙にくるんで国民に配ると言い出したのです。しかも、失業率が先進国中で最低という、未曾有の好景気の最中に! 減税は景気悪化時の政治的、経済的切り札のはずです。そのカードをこんなにやすやすと切ってしまうとは。カレン副首相兼財務相の歯切れの悪いコメントを初めて聞いたように思います。(次回はいよいよ最終回)

減税については、「ニュージー大好き」のコラム「キウイライフにひとかけらの経済を」でも連載しました。よろしかったらご覧下さい。
「減税効果を食いつぶすもの」
「チワワが来た日」


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「マヨネーズ」 次回はいよいよ投票日当日。それでも、なぜか続きますのでヨロシク^ー^;

西蘭みこと